2016年9月号

人手不足が進む介護事業所における職員の不満の内容は?
◆介護職員も家族の介護に追われている

8月上旬に公益財団法人介護労働安定センターが公表した平成27年度「介護労働実態調査」により、両親ら家族の介護のために離職した従業員がいた介護事業所が約4分の1に上ることがわかりました。調査は昨年10月、介護に関わる1万7,643事業所と介護現場で働く5万2,929人を対象に実施され、事業所の51%、従業員の41.3%が回答しました。

 ◆事業所の回答では「従業員不足」が6割超

事業所へのアンケートでは、従業員が不足していると回答したのは61.3%で、前年より2%増えました。その原因は「採用が困難」が70.8%でトップ、さらにその理由として多かったのが「賃金が低い」(57.4%)、「仕事がきつい」(48.3%)、「社会的評価が低い」(40.8%)の順でした。労働者の平均賃金(月給の者)は21万7,753円で、前年より2,676円のアップとなりました。また、「過去3年間に介護を理由に退職した従業員がいた」と答えた事業所は23.5%に上り、介護事業所においても「介護離職」が進んでいる現状が明らかになっています

 ◆従業員の不満は「人手が足りない」「賃金が低い」が多数

従業員に対する調査では、仕事を選んだ理由として「働きがいのある仕事だから」が52.2%(前年比マイナス0.4%)、「資格・技能が活かせるから」が35.8%(同マイナス0.4%)でした。労働条件等に対する不満では、「人手が足りない」が前年より2.6%増えて50.9%で最も多く、次いで「仕事内容の割に賃金が低い」が42.3%、「有給休暇が取りにくい」が34.6%と、介護労働の現状を如実に示す数字となりました。一方、仕事や勤務先に対する希望では「今の仕事を続けたい」が65.5%、「今の勤務先で働き続けたい」が57.5%という結果でした。

 ◆政府の取組みは?

政府は、「一億総活躍プラン」の中で「介護離職ゼロ」に向けた取組みとして、介護人材の処遇改善や人材育成、介護休業の取得促進などを掲げていますが、上記の調査実態からも、より具体的で明確な対策が求められると言えるでしょう。

平成27年度「過労死等の労災補償状況」が公表されました
 ◆過労死等の労災請求件数が増加

厚生労働省から2015年度の「過労死等の労災補償状況」が公表されました。脳・心臓疾患の労災請求件数は795件(前年度比32件増)、業務上と認定された支給決定件数は251件(同26件減)で、このうち死亡件数は96件(同25件減)となりました。なお、ここで言う「過労死等」とは、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害」と定義されています(過労死等防止対策推進法第2条)。

 ◆精神障害の労災請求件数も増加

また、精神障害の労災認定については、請求件数は1,515件(前年度比59件増)となり、このうち自殺件数(未遂を含む)は199件(同14件減)でした。支給決定件数は472件(同25 件減)となり、このうち未遂を含む自殺の件数は93件(同6件減)でした。

 ◆「時間外労働80時間」で立入調査の対象に

過労死等の労災認定については、「死亡・発症前における長時間労働の有無」が判断材料の1つとなります。脳・心臓疾患については、発症前1カ月間におおむね100時間の時間外労働があると業務災害であると判断されやすくなります。また、精神障害については、発病直前の1カ月におおむね160時間の時間外労働があると業務による心理的負荷が「強」と判断され、業務災害であると判断されやすくなります。労災認定についてはこの他にも細かい基準はありますが、長時間労働が長ければ長いほど「業務上である」と判断されやすくなると考えてよいでしょう。なお、今年度から、労働基準監督署が企業に立入調査に入る際の基準が引き下げられました。これまでは「100時間」の時間外労働が基準でしたが、これが「80時間」に引き下げられており、対象が大幅に拡大されています。

◆長時間労働のリスク

長時間労働は従業員も会社も疲弊させてしまい、どちらにとっても好ましくない結果につながるリスクが増大します。恒常的に長時間労働となっていると問題解決の視点が見えにくくなりますので、早期の改善が必要です。自動車運転者に関する「相互通報制度」の改正について

◆厚労省通達が改正

厚生労働省より、自動車運転者の労働条件改善のための地方運輸機関との相互通報制度に関する通達が改正されました(基発第145号平成元年3月27日、改正基発0808第1号平成28年8月8日)。自動車運転者の労働条件の確保・改善のための改善基準告示等に重大な違反が認められた事案について、労働基準監督官機関と地方運輸機関との間で「相互通報制度」が設けられていますが、今回の改正は、自動車運転者の健康確保のため、労働安全衛生法に基づく健康診断を実施していないなどの違反が認められた事案についても相互に通報するという内容です。

 ◆「相互通報制度」とは?

労働基準監督機関と地方運輸機関が運送事業者への監督等の結果を相互に通報し、これに基づきそれぞれが調査等のうえ、所要の措置を講じ、自動車運送事業に従事する自動車運転者の労働条件の改善を図るというものです。

 ◆改正の内容

今回の改正で、通報事案の中に「労働安全衛生法(健康診断)」が新たに追加されました。
(1)労働基準監督機関から地方運輸機関への通報
臨検の結果、道路運送法および貨物自動車運送事業法の運行管理に関する規程に重大な違反の疑いがあると認められた事案(改善基準告示違反、最低賃金法違反、労働安全衛生法(健康診断)違反等)
(2)地方運輸機関から労働基準監督機関への通報
監査の結果、自動車運送事業者について労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法(健康診断)、改善基準告示について重大な違反の疑いがあると認められた事案

◆改正の背景

自動車運転者について運行の中止を含む健康起因事故の報告件数が増加傾向にある状況を踏まえ、今回の改正となりました。通達の改正は、平成28年8月8日から実施されています。

「高年齢者の労働災害」を未然防止するための対策

 

◆企業にとっての重要課題

現在、高年齢者の労働災害防止は重要な課題となっています。

厚生労働省の「第12次労働災害防止計画」によると、60歳以上の労働者の死亡災害発生率(危険度)は若者の3.6倍、また、50歳以上の労働者が全死亡災害の56%を占めています。労働者の定年延長や退職者の再雇用が進み、企業の人手不足感から高齢者の積極的な活用というニーズが生じている中で、高年齢の就業者は今後さらに増えることが見込まれますので、対策は急務です。

 

◆加齢による身体機能の低下に伴う労災が多い

高年齢者の労働災害では「墜落・転落・転倒」が多数を占めます。加齢により、平衡感覚や筋力・視力・聴力、鋭敏性が低下することがその要因の1つです。

財団法人労働科学研究所によると、55歳~59歳の身体機能は20歳~24歳と比較すると、平衡機能は48%、薄明順応は36%、視力は63%、瞬発反応は71%など、大きく低下しますが、高年齢労働者自身は自分の身体機能の低下を軽く見る傾向にあり、注意を促してもあまり危機意識を持たないということも多いようです。

また、高年齢者の場合、傷害が重篤化して休業も長期化する傾向にあります。復帰しても、予後が思わしくないことも少なくありません。

 

◆対策には「加齢」を意識することが肝要

このような高年齢者の労働災害を未然に防止するためには、特に「加齢」を意識した対策を講じることが求められます。

例えば、身体機能の低下に配慮して作業負荷を軽減するような作業方法を定め、その方法が適切に実施されるように管理する、労働者個人の健康の状態をチェックして異常を早期に発見するためのシステム作りを行い、健康を管理する、といった対策が考えられるのではないでしょうか。