2016年12月号

「賃上げ実施の中小企業」の法人税減税を拡大へ
 ◆2017年度税制改正で中小企業の法人税減税額引上げの方針

政府・与党は、資本金1億円以下の中小企業における賃上げの機運を高めるため、「所得拡大促進税制」を拡充して賃上げを実施した中小企業の法人税の減税額の引き上げることを、12月にまとめる与党税制改正大綱に盛り込む方針を固めました。

◆「所得拡大促進税制」って何?

本制度は2013年度に導入され、中小企業だけでなく大企業も活用することができます。
具体的には、2012年度の給与支給総額に比べて3%以上、また、支給総額と従業員の平均給与が前年度以上の場合に、増加分の10%が法人税額から減額されるという制度で、2014年度には約7万4,000社の中小企業が本制度を利用していますが、中小企業全体から見ればごく一部にとどまっています。最低賃金の引上げ等も行われていますが、今年の中小企業の賃上げ幅は、厚生労働省の調査によれば1.1%です。そこで、この減額幅を20%に引き上げることにより中小企業の賃上げを促す、というのが改正方針の趣旨です。

◆対象となる「賃上げ」とは?

本制度の対象となる賃上げには、正社員の基本給引上げ(ベースアップ)だけでなく、賞与支給額やパート・アルバイトの賃金の引上げも含まれます。賞与支給額は業績に左右されるものですが、本制度は事前申請なしに利用できるので、「思わぬ好景気に見舞われた」という企業にとってはチャンスです。また、人材確保のためパートの正社員化を進めたり、時給引上げ等を行ったりしている企業でも要件を満たす可能性があります。
一度、自社の給与支給総額の変化を確認してみてはいかがでしょうか?

マタハラ防止策を講じない企業の求人はハローワークで不受理に
◆来年1月施行

厚生労働省は、昨年10月から順次施行されている若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)に基づき、マタニティー・ハラスメント(マタハラ)に対して、男女雇用機会均等法で義務付けた防止措置を講じない企業の求人をハローワークで受理しないように制度を改めます。
政令を改正して、来年1月から施行されます。

◆求人不受理の対象に「マタハラ」を追加

ハローワークでは今年3月から、一定の労働関係法令の違反があった事業所を新卒者などに紹介することのないよう、こうした事業所の新卒求人を一定期間受け付けない仕組みを創設しています。
具体的には、労働基準法・最低賃金法については、(1)1年間に2回以上同一条項の違反について是正勧告を受けている場合、(2)違法な長時間労働を繰り返している企業として公表された場合、(3)対象条項違反により送検され公表された場合、また男女雇用機会均等法と育児・介護休業法については、法違反の是正を求める勧告に従わず公表された場合等に、当該企業の新卒求人を受理しない取り組みを始めています。今回は、その不受理の対象に、「マタハラ」に関する規定を加えるというものです。

◆両立支援で女性の社会進出を後押し

男女雇用機会均等法は、女性従業員の妊娠や出産を理由に職場で不利益な扱いをされることがないように、相談窓口を設置するなど防止体制を整備するように求めています。厚生労働省の調査で法違反が見つかれば、是正を求める勧告を行いますが、それにも従わずに企業名が公表された場合には求人を受理しないこととします。不受理となる期間は、違反が是正されてから6カ月が経過するまでの期間となります。育児と仕事を両立させる環境整備を企業に促し、女性の社会進出を後押しする狙いです。

◆就労実態等の職場環境に関するデータベースも整備

また、厚生労働省では、残業時間や育休の取得率など企業の職場環境に関する様々な情報を集めたデータベースを整備する計画です。若者がいわゆる「ブラック企業」へ就職してしまうことを防ぐために、労働条件などの的確な情報に加えて、平均勤続年数や研修の有無・内容といった就労実態等の職場情報も併せて提供し、職場情報についての開示を強化するように企業側に働きかけ、学生や転職を考えている人がそうした企業に就職することを未然に防ごうというものです。

内閣府の調査結果にみる「働く女性」の実態
◆平成28年度の結果が発表

内閣府が実施した平成28年度の「男女共同参画社会に関する世論調査」の結果が発表されました。この調査では、男女共同参画社会に関する意識、家庭生活等に関する意識、女性に対する暴力に関する意識、旧姓使用についての意識、男女共同参画社会に関する行政への要望等について調査が行われましたが、今回は「働く女性」に関係する部分の調査結果を取り上げます。

◆職場における男女の地位の平等感

職場において男女の地位が平等かどうかについての調査では、「男性のほうが優遇されている」との回答割合が56.6%(「男性のほうが非常に優遇されている」15.1%、「どちらかといえば男性のほうが優遇されている」41.5%)、「平等」との回答割合が29.7%、「女性のほうが優遇されている」との回答割合が4.7%(「どちらかといえば女性のほうが優遇されている」4.1%、「女性のほうが非常に優遇されている」0.6%)となっています。性別で見ると男性のほうが「平等」と答えた割合が高くなっており、年齢別では、「男性のほうが優遇されている」と回答した割合は40歳代が一番高い結果となっています。

◆女性が増えるほうがよいと思う職業や役職について

職業や役職において今後女性がもっと増えるほうがよいと思うものに関する調査では、「国会議員、地方議会議員」を挙げた人の割合が58.3%と最も高く、以下、「企業の管理職」(47.0%)、「閣僚(国務大臣)、都道府県・市(区)町村の首長」(46.1%)、「小中学校・高校の教頭・副校長・校長」(42.0%)、「国家公務員・地方公務員の管理職」(41.0%)、「裁判官、検察官、弁護士」(38.7%)となっています。

◆女性が職業を持つことに対する意識

一般的に女性が職業を持つことについてどう考えるかについては、「女性は職業を持たないほうがよい」との回答割合が3.3%、「結婚するまでは職業を持つほうがよい」が4.7%、「子供ができるまでは職業を持つほうがよい」が8.4%、「子供ができても、ずっと職業を続けるほうがよい」が54.2%、「子供ができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業を持つほうがよい」が26.3%となっています。性別に見ると、「子供ができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業を持つほうがよい」との回答割合は女性のほうが高いことがわかりました。年齢別に見ると、「子供ができても、ずっと職業を続けるほうがよい」と回答した人は40~50歳代で多く、「子供ができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業を持つほうがよい」と答えた人は18~29歳で多くなっています。

「定年廃止・年齢引上げ」を実施する中小企業の割合は?
◆定年廃止・年齢引上げを行う中小企業は増加

厚生労働省から、平成28年「高年齢者の雇用状況」(6月1日現在)が公表されました。これは、企業に求められている高年齢者の雇用状況の報告を基に「高年齢者雇用確保措置」の実施状況などを集計したもので、今回の集計では、従業員31人以上の企業15万3,023社の状況がまとめられています。
この結果から中小企業(従業員31人~300人規模。集計対象は13万7,213社)の状況を見てみましょう。

◆「定年制の廃止」「65歳以上定年」について

定年制を廃止している企業は全体で4,064社(前年比154社増)、割合は2.7%(同0.1ポイント増)となり、定年を65歳以上としている企業は全体で2万4,477社(同1,318社増)、割合は16.0%(同0.5ポイント増)となりました。このうち、定年制を廃止した中小企業は3,982社(同137社増)、割合は2.9%(同変動なし)でした。また、65歳以上定年としている中小企業は2万3,187社(同1,192社増)、割合は16.9%(同0.4ポイント増)でした。

◆「希望者全員66歳以上の継続雇用制度」の導入状況

希望者全員が66歳以上まで働ける継続雇用制度を導入している企業は、全体で7,444社(同685社増)、割合は4.9%(同0.4ポイント増)となり、このうち中小企業は7,147社(同633社増)、割合は5.2%(同0.3ポイント増)という状況です。

◆「70歳以上まで働ける企業」について

70歳以上まで働ける企業は、全体で3万2,478社(同2,527社増)、割合は21.2%(同1.1ポイント増)となり、このうち中小企業は3万275社(同2,281社増)、割合は22.1%(同1.1ポイント増)という状況です。

◆制度見直しの必要性

以上のように、人手の確保が大変な時代になり、定年制の廃止や年齢引上げを実施する企業は増加していますが、こうした状況は今後も続きそうです。また、最近の裁判例では、「長澤運輸事件(地裁判決)」や「トヨタ自動車事件(高裁判決)」などのように、定年後の再雇用に伴う賃金や職種変更に関して、企業にとって厳しい判決が出るケースがあるようです。定年後の再雇用制度を設けている企業では、制度の内容や実施方法について見直しが必要かもしれません。