2019年11月

労働者不足への対処法~労働経済動向調査からわかる他社の取組み

 

◆約7割の企業が対策を講じている

厚生労働省から、「労働経済動向調査(2019年8月)」の結果が公表されました。同調査は、景気の変動が雇用などに及ぼしている影響や今後の見通しについて調査し、労働経済の変化や問題点を把握することを目的に、四半期ごとに実施しているものです。

今回は、特別調査項目として挙がった「労働者不足の対処方法」について取り上げ、労働者が不足していると回答した企業が、人手不足対策として、どのような取組みを行っているのか、みていきます。

◆トップは『正社員等採用・正社員以外から正社員への登用の増加』

現在、労働者が不足していて、かつ、過去1年間に何らかの「対処をした」事業所の割合は70%、今後1年間に「対処をする予定」の事業所の割合は66%でした。対処策としては、過去1年間・今後1年間とも『正社員等採用・正社員以外から正社員への登用の増加』の割合が最も多く挙がりました(過去1年間:63%、今後1年間:61%)。

ほかには、「臨時、パートタイムの増加」(過去1年間:44%、今後1年間:44%)、『派遣労働者の活用』(過去1年間:40%、今後1年間:36%)、『配置転換・出向者の受入れ』(過去1年間:24%、今後1年間:23%)が続いています。

◆賃金アップよりも社員の働きやすさを重視?

賃金以外の在職者の労働条件の改善として、休暇の取得促進、所定労働時間の削減、育児支援や復帰支援の制度の充実などに取り組んでいます(過去1年間:63%、今後1年間:34%)。これら労働条件の改善は、前回調査(2018年8月)と比べると上昇幅が最も大きく(前回:24%、今回:34%)、企業は、社員が働きやすい環境の整備に力を入れているようです。

上昇幅では上記賃金以外の在職者の労働条件の改善がトップでしたが、次いで『在職者の労働条件の改善(賃金)』(前回:29%、今回:33%)が、ほかに『離転職の防止策の強化、又は再雇用制度、定年延長、継続雇用』(前回:34%、今回:38%)なども上昇しています。

 

◆その他の対策は?

『求人条件(賃金、労働時間・休暇、学歴、必要資格・経験等)の緩和』(過去1年間:63%、今後1年間:31%)、『省力化投資による生産性の向上・外注化・下請化等』(過去1年間:63%、今後1年間:31%)も対策として挙がっています。

 

 

来年1月からハローワーク求人票が変わります

 

◆ハローワークで求人する企業が再び増えている

ハローワークに登録した求人情報は、5年前から職業紹介事業を行う地方自治体や民間事業者に、オンラインで提供されています。

近年では、求職者が求人情報専門の検索サイトIndeed等を利用して、多くの情報の中からより求める条件に合致する企業を選んで応募するようになっています。

ハローワークがオンライン提供する求人情報は、こうしたサイトでもヒットする可能性があることから、ハローワークを通じた求人が見直されつつあります。

 

◆「人材確保対策コーナー」での求人相談も人気

厚生労働省では、2018年4月より全国84のハローワークに「人材確保対策コーナー」を設置し、介護・医療・保育の福祉人材分野と警備業、運輸業、建設業などの業種のマッチング支援を強化するため、専門相談員を配置しています。

求職者にも担当者がついて企業見学会や就職面接会などを実施しているため、求職者と密に接点を持つことができ、利用が増えているようです。

 

◆新しい求人票ではより多くの情報を掲載できるようになる

そうしたなか、ハローワークのシステムと求人票の様式が新しくなります。

A4判片面から両面となり、固定残業代制度、職務給制度や復職制度の有無のほか、残業・休日労働に関する労使協定(36協定)で、繁忙期等により長い労働時間を設定する特別条項を定めているかなど、登録する項目が追加されます。

また、会社や職場の写真、面接会場の地図や取扱商品の写真など、画像情報も登録できるようになるため、より内容を工夫できるようになります。

◆「マイページ」で求職者とも直接やり取りできるようになる

新しいハローワークインターネットサービスでは、会社が「マイページ」を設けて、担当者が会社のパソコンで、求人内容を変更したり募集停止をしたりすることができるようになります。

また、求職者もマイページを登録している場合には、メッセージ機能を使って直接やり取りができるようになるため、求職者からの質問等によりきめ細かな対応ができ、安心感を持ってもらえるようになります。

新サービスの運用は2020年1月6日からで、既に求人票を登録済みの会社も、情報を追加登録することができますので、なかなか応募が来ないと悩んでいる場合には、追加登録を検討してみてはいかがでしょうか。

正規・非正規雇用の平均給与の現状と「同一労働同一賃金」対応

 

◆企業が支払った給与の総額、7年連続増加

国税庁が租税負担の検討のため例年実施している「民間給与実態調査」の最新版が公表されました(2018年12月31日現在の源泉徴収義務者が対象)。

調査によれば、昨年中に民間の事業所が支払った給与の総額は、223兆5千億円(前年対比3.6%増)でした。給与総額の増加は7年連続のことです。

 

◆正規・非正規雇用の平均給与

また、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は440万円(同2.0%増)でした。この平均給与を正規・非正規雇用でみると、正規504万円(同2.0%増)、非正規179万円(同2.2%増)とのことです。

正規・非正規間では、給与に倍以上の格差があるといえます。

 

◆同一労働同一賃金まであと半年

2020年4月には、いわゆる「働き方改革関連法」(パート・有期法、改正派遣法等)による「同一労働同一賃金」がいよいよ適用され、企業は正規・非正規雇用での不合理な給与の格差を禁じられることとなります(ただし、パート・有期法の中小企業への適用は2021年4月から)。適用により、非正規雇用の平均給与は来年以降も増加するでしょう。

 

◆同一労働同一賃金による人件費増をどうするか

日本経済新聞(2019年9月21日付)が実施した「社長100人アンケート」によれば、同一労働同一賃金に対応した制度の導入により人件費が「増える」「どちらかといえば増える」と回答した企業は46.9%でした。

また、既に同一労働同一賃金に対応した制度整備を終えた企業のうち、「基本給・給与」を見直した企業は少なかったようです。同アンケートでは、非正規雇用に賞与支給を開始する企業は10.5%、非正規雇用の基本給を正規雇用並みに引き上げる企業は7.0%と少数でした。一方で、「手当・福利厚生」を見直したという回答が多く、たとえば「時間外・深夜・休日手当の割増率」を見直した企業は17.5%だったとのことです。

企業によって対応に差はありますが、給与を中心とする待遇格差の是正や、そのコストへの対応が必要です。大手他社の動向も参考にしつつ、対応を急ぎましょう。

 

令和元年版 労働経済白書の要旨

 

◆ポイントは「働きやすさ」と「働きがい」

厚生労働省は、「令和元年版労働経済の分析」(以下、労働経済白書)を公表しました。今回の労働経済白書では、人手不足下での「働き方」について、「働きやすさ」と「働きがい」の観点から分析が行われています。多くの企業が人手不足を緩和するために、求人条件の改善や採用活動の強化などの取り組みを強化している一方で、「働きやすさ」や「働きがい」を高めるような雇用管理の改善については、さらに取り組んでいく必要があるとしています。

 

◆賃金は増加の傾向

2018年度の現金給与総額(月額)は、5年連続の増加となりました。一般労働者の名目賃金およびパートタイム労働者の時給も増加しています。白書によると、人材確保のために7割近くの企業が「求人募集時の賃上げ」や「中途採用の強化」を行っています。

しかし、それでも多くの労使が人手不足による職場環境への影響を感じており、「働きやすさ」、「働きがい」の低下を実感しています。「働きがい」を向上させるためには、その前提として「働きやすさ」の基盤がしっかりと構築されていることが重要です。「働き方改革」を両観点から、より一層推進していくことが、人手不足を緩和していくことに繋がります。

 

◆「働きやすさ」のカギ

男女、年齢を問わず、働きやすさの向上には「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」が必要であると考えている労働者の割合が最も多く、次いで「有給休暇の取得促進」、「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」が多くなっています。15~44歳の女性にとっては「仕事と育児との両立支援」も働きやすさに関する重要な要素です。有給休暇の取得促進や労働時間の短縮、働き方の柔軟化などの雇用管理が、従業員の働きやすさの向上、離職率の低下、新入社員の定着率の上昇につながると考えられ、企業に対応が求められるところでしょう。

◆「働きがい」をもって働くために

「働きがい」を高めるには、職場の人間関係の円滑化や労働時間の短縮などに加えて、上司からの適切なフィードバックやロールモデルとなる先輩社員の存在を通じて、将来のキャリア展望を明確化することが重要です。また、質の高い「休み方」(リカバリー経験)が疲労やストレスからの回復を促進し、「働きがい」を高める可能性があることにも注目です。「働きやすさ」の向上が定着率などを改善し、「働きがい」の向上が定着率に加え、労働生産性、仕事に対する自発性、顧客満足度などさまざまなアウトカムの向上につながると考えられます。白書では、具体的な企業の取組例も紹介されており、参考にできそうです。