2015年5月号

パート時給・新卒初任給に関する調査結果にみる最近の賃金動向
◆賃上げの動きは中小企業にも?

昨年と今年の春闘では、政権の働きかけにより賃上げを実施する大手企業が相次ぎ、「官製賃上げ」などの言葉が聞かれました。中小企業においても人手不足解消等のため、賃上げに踏み切るところがありました。2017年4月からの消費税率10%への引上げが決定された今、中小企業における賃金の動向が今後の景気を大きく左右するとして、注目されています。
そこで、2013年度・2014年度における三大都市圏(首都圏・東海・関西)のパート募集時平均時給と、2009年~2014年の企業規模別の賃金の額に関する調査結果から、最近の中小企業の賃金の動向を見てみましょう。

 

◆パート募集時平均時給の推移

株式会社リクルートジョブズが毎月公表している調査結果によると、2014年度の平均時給は959.8円で、2013年度の948.8円よりも10円以上上がっています。特に、年末年始の繁忙期には2014年10月度:961円、11月度:999円、12月度:966円と、3カ月連続で平均を上回る金額となっていました。
厚生労働省が毎月公表している一般職業紹介状況においても、パートの有効求人倍率が前年を上回る傾向が続いており、時給額の上昇からは、「より良い条件を提示して人材を確保したい」という企業の思惑が見てとれます。

◆中小企業の賃金額の推移

厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、毎年常用労働者10人以上の民営事業所を対象に有効回答を得た企業の賃金の額をまとめています。
企業規模別の男性の額を比較すると、中企業(常用労働者数100~999人)では2014年:31万2,100円で、2013年:30万9,400円を上回りますが、2009年~2014年の平均31万4,160円は下回っています。
また、小企業(常用労働者数10~99人)では2014年:28万5,900円で、2013年:28万円5,700円を若干上回り、2009年~2014年の平均28万4,300円を1,600円上回っています。
上記を見る限りでは、中小企業全体に賃上げの動きがあると言うのは難しそうです。
同調査の2015年分の結果は、7月に調査が行われた後、2016年2月頃に公表される見通しです。中行企業の正社員にも賃上げの動きが波及しているかは、その結果を見ることで確認できるでしょう。

“過酷な職場”の正社員はどのような意識を持って働いている?
 ◆調査の概要

独立行政法人労働政策研究・研修機構が全国の15~34歳の正社員(回答数:約1万人)を対象として行った、「正社員の労働負荷と職場の現状に関する調査」の結果が公表されました。調査項目は、採用時の状況や賃金、残業、教育訓練、目標管理、本人の満足度や今後の職業生活等です。
調査結果からは、精神的・肉体的な労働負荷が過重となっている正社員が、どのような職場環境で、どのような意識を持って働いているのかがうかがえます。

◆「大量離職大量採用」と「早期離職」にみられる特徴

長時間労働等の問題がある会社の中でも、問題が多い会社の正社員に多いのが「入社 3 年未満で管理職に抜擢される人がいる」という回答です。
こうした会社では、「大量離職と大量採用が繰り返される」、「精神的に不調になり辞める人が多い」、「過大なノルマがある」等の傾向があり、また、早期離職が多い職場ではそれぞれの項目で数値が多くなっています。
現在、労働行政が厳しく対応していくとしている「若者の使い捨て」に関するポイントが多くみられます。

 ◆求人情報と実際の労働条件とのギャップ

採用前に提示された求人情報と実際の労働条件との間のギャップについての結果からは、正社員の離職割合が高い会社や、大量離職と大量採用が繰り返されている会社のほうが、「労働時間の長さ」「休暇の取得しやすさ」「給与水準」「手当や福利厚生の内容」「仕事の内容」に関して、採用後のほうが「悪い」と感じていることがわかります。

◆残業と仕事への責任感

正社員の離職割合が高いほど、「仕事への責任感」「仕事や成果へのこだわり」が低下する傾向にある一方、無駄な仕事や人員不足が長時間の残業の一因となっているようです。
社員が定着しない企業では、仕事の進め方自体の見直しも必要なようです。

◆労務問題の解決のために

以上から、ハローワークによるブラック企業についての求人拒否、労働基準監督署による長時間労働等の問題のある会社への監督・指導の強化等、今後、労働行政が厳しく対応していくとしている課題も多くみられる結果となっていますので、会社の労務問題の解決のため、参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

官民で広がりを見せる「朝方勤務」の取組み

 

◆国家公務員も朝型勤務に

最近、「朝型勤務」を導入する企業についてのニュースをたびたび見かけるところです。そのような中、政府も国家公務員の長時間労働の抑制を目指して、今夏の勤務時間を「朝型」にする方針を示しました。

実施方針では、全府省庁の職員を対象に、今年78月の勤務開始を12時間早めて午前7時半~8時半とし、原則として午後5時前後の定時に退庁することを促すとしています。他に「毎週水曜日は午後8時までに消灯」「午後415分以降に会議を設定しない」なども掲げられています。

 

◆伊藤忠商事における取組み

安倍首相は、このような夏季における就業スタイル変革の取組みを国全体に浸透させたい意向のようですが、民間企業においても「朝型勤務」導入はすでに広がりを見せています。「朝型勤務」導入の事例として取り上げられることも多い伊藤忠商事では、「より効率的な働き方の実現に向けて」として、朝型勤務制度を20145月より正式導入しました。201310月から朝型勤務制度のトライアル実施を開始したところ、月平均の時間外勤務時間が総合職で49時間11分→45時間20分と約10%近く減少したそうです。伊藤忠商事の取組みでは、午前59時の時間外手当の割増率を原則50%に引き上げ、8時前始業の社員に対しては軽食を支給するなど、導入にあたりコストをかけていますが、夜間の時間外勤務時間が減少したことにより、約4%のコスト削減や、電力使用量約6%減につながったそうです。

 

◆その他の民間企業における取組みと今後の広がり

その他の企業の取組みとして、リコーでも午後8時以降の残業を原則禁止とし、午前8時の出社を促しています。さらに、フレックスタイム制の導入により、仕事の繁忙具合によって早い時間に帰れるようにするなど、メリハリのある働き方ができるようにすることで、生産性向上および残業時間減少を目指しています。他にも、カゴメや東邦銀行などでも朝型勤務制度の導入を行っており、これらの企業における残業代削減や各種コスト減少の成功事例が知られれば、同様の制度を導入する企業は今後ますます増えていくかもしれません。

今年度の新入社員の特徴と働くことに対する意識の変化

 

◆今年度の新入社員は「消せるボールペン型」

公益財団法人日本生産性本部の「職業のあり方研究会」では、毎年、新入社員の特徴をその年の流行などに例えて発表しています。平成27年度の新入社員のタイプは「消せるボールペン型」と発表し、その特徴をまとめました。海外でもヒットし、オフィスでも定着している消せるボールペン。今年度の新入社員は、「見かけは皆同じボールペン(新入社員)ですが、その資質や特性は変化していて、見かけだけで判断せず、その最大の特質である書き直しができる機能(変化に対応できる柔軟性)を活かして活躍してほしい」という意味で命名されたそうです。

 

◆熱血指導には注意が必要

インクの色を摩擦熱によって透明にする消せるボールペンは、温度の高いところに不用意に書類を置くと文字が消えてしまいます。つまり、新入社員を即戦力にしようと思い、熱を入れる(熱血指導する)と、色(個性)を消してしまったり、インクが切れてしまったり(すぐに離職してしまう)するという欠点を併せ持っているとのこと。企業は、彼らを酷使しすぎて「ブラック企業」と誤解されないよう注意が必要です。

 

◆積極採用は新入社員の意識にどう影響するか?

近年の景気回復と人手不足に伴い、企業は新卒採用を積極的に行う傾向にあります。厚生労働省と文部科学省の発表によると、21日時点での大学生の内定率は86.7%で、これは2008年のリーマンショック前の水準に近づいたことになります。しかし、新入社員の離職率は過去10年分のデータを見ても、高卒・短大卒は約4割、大卒では約3割が入社3年以内に離職しています。また、同本部が毎年6月に発表している「働くことの意識」調査では、「この会社でずっと働きたいか」への回答は、「定年まで勤めたい」が、平成26年度は288%と減少しています。このような背景もあり、今年度の意識調査の結果が注目されています。新入社員の早期離職を防ぐために、企業は「この会社で定年まで働きたい」と思われる職場環境を会社全体で作り、育てていくよう心がける必要があると言えます。