2016年1月号

雇用保険、65歳以上も新規加入が可能に!
 ◆高齢者の雇用拡大を後押し

厚生労働省が、来年度から65歳以上の高齢者も新規で雇用保険に加入できるようにする方針を固めたそうです。同省の雇用保険部会が12月にまとめる制度改正の報告書に盛り込み、来年の通常国会に雇用保険法の改正案を提出する予定です。

 ◆65歳前からの継続雇用者との不公平感を是正

現行の雇用保険制度では、失業したときに、65歳未満は賃金の45~80%に相当する額を最大360日分受け取ることができ、65歳以上の場合には最大50日分の一時金を受け取ることができます。ただ、65歳以上で転職したり、親会社から関連会社に転籍したりした場合、雇用保険に入ることができないため、この給付を受けることができません。現在、65歳以上の雇用保険加入者は140万~150万人いると言われ、新規加入を認めることで、転職した人たちなどとの不公平感を是正しようというものです。

 ◆転職・再就職者も失業給付の対象に拡大

改正後は、雇用保険の加入に年齢制限を設けず、65歳以上の退職者については「高年齢求職者給付金」として、65歳前から継続して同じ事業主の下で働いていた人と同様に、失業前に受け取っていた賃金の最大50日分を支給します。ただし、適用には「週の所定労働時間が20時間以上」「直近1年のうち6カ月以上被保険者であること」といった条件がつきます。65歳未満の失業給付は現行のままの方針です。また、65歳以上については当面、労使が折半で負担する保険料を免除します。現行の制度でも64歳を超えた人の雇用保険料は労使とも免除しており、同様の扱いとなります。

◆求職者増と人手不足も背景

高齢化に伴い65歳以上の求職者は増え続け、人手不足も背景に、企業も高齢者を受け入れる環境整備に動いています。2014年度の新規求職者は46万4,901人で、前年度に比べて10.8%増え、新規求職者全体の7.8%を占めています。ただ、今回の対象拡大で安易な受給を増やさないことも必要で、厚生労働省は給付金を申請する65歳以上の高齢者が実際に求職活動しているかなどの確認を厳しくする方針です。

 ワタミ事件で注目される“懲罰的慰謝料”とは?
 ◆損害賠償請求額はどう算出する?

過労死・過労自殺の損害賠償請求訴訟では、(1)死亡による精神的苦痛に対する慰謝料、(2)死亡しなければ得られたはずの収入を填補する遺失利益、(3)葬儀費用等が請求内容となります。このうち、(1)は交通事故裁判例の蓄積によって作成された、いわゆる裁判所基準により算出され、(2)は死亡労働者の基礎収入から生活費を差し引いた額に係数を掛け合わせて算出されます。実際には他にも様々な事情を斟酌して算出されますが、あくまでも死亡による損害を回復するという考え方です。

◆過去の事件とワタミ事件の違いは?

過労死についての有名な労働判例である電通事件では、会社の支払額は約1億6,800万円(うち遅延損害金4,200万円)でしたが、今回のワタミ事件では会社は1億3,365万円を支払うこととなりました。いずれも高額な賠償金支払義務を負った点は共通しますが、ワタミ事件の1億3,365万円は、上記(1)が相場で2,000~2,500万円のところ懲罰的慰謝料と合わせて4,000万円とされ、これに上記(2)7,559万円等を加えて算出されています。この“懲罰的慰謝料”が認められた点が、過去の事件と大きく異なると言われています。

 ◆“懲罰的慰謝料”とは?

アメリカ等では、損害賠償金の目的には損害の回復のほかに違法行為の抑制もあるとして、生じた損害以上の賠償金を認めます。ファーストフード店で買ったコーヒーをこぼして火傷を負った客への賠償金約3億円の支払いが命じられた例もあります。日本でも大型トレーラーの脱輪事故で1億円を懲罰的慰謝料として請求したケース等ありますが、これまで認められたものはありませんでした。

 ◆今後への影響は?

ワタミ事件で原告側代理人を務めた弁護士は、「今後、同様の事件を起こした企業には、司法判断としても、社会的非難としても、厳しい判断が相次ぐだろう」とコメントしています。労働基準行政でも、違法な長時間労働の是正勧告に従わない企業名の公表、送検といった取組みが強化されており、コンプライアンスの意識を持たない企業は淘汰されていくと考えるべきでしょう。

 障害者雇用数が過去最高を更新!来年4月から施行される改正法の内容は?
 ◆12年連続過去最多を更新

厚生労働省が11月下旬に「平成27年障害者雇用状況の集計結果」を発表し、今年6月時点において民間企業で働く障害者数が45万3,134人(前年比5.1%増)となり、12年連続で過去最多を更新したことがわかりました。なお、障害者雇用促進法では、民間の事業主に対しての法定雇用率を2%と定めていますが、今回の集計結果では1.88%となっており、法定雇用率を下回る結果となっています。

 ◆段階的に施行される改正障害者雇用促進法

障害者雇用促進法は、昭和35年の制定以来、改正を重ねてきており、直近の改正も段階的に施行されています。平成25年6月には障害者の範囲が「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、その他心身の機能の障害があるために長期にわたって職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な者」と明確化されました。平成28年4月1日からは、雇用分野における差別禁止、合理的配慮の提供が義務となります。なお、平成30年4月1日からは法定雇用率の算定基礎の対象に、新たに精神障害者が追加されることとなります。

 ◆来年4月1日から義務となる項目は?

来年4月1日からは、(1)障害者に対する差別の禁止、(2)合理的配慮の提供義務、(3)苦情処理や相談体制の整備が義務となります。具体的には、(1)募集や採用、待遇などについて、単に「障害者」という理由で応募を認めないことや、昇進昇格を認めないといったことなどが禁止されます。(2)については、障害者が職場で働くことができるように、支障となることを改善する(例えば肢体に不自由がある方に対して机の高さを調節する等)といった配慮を義務付ける(事業主が過重な負担にならない範囲)ものです。(3)については、事業主が障害者から苦情や相談を受けた場合に適切に対応するために、相談窓口を設置する等の整備が求められるというものです(努力義務)。

 ◆障害者への理解が重要

厚生労働省は、障害者雇用が増加していることについて「障害を持つ人の就業意欲の高まりや就労支援対策の充実などがかみ合った」と分析しています。企業でも職場全体として周知させていくことが、よりよい職場環境をつくるきっかけとなるのかもしれません。

シニア層の部下、活用できていますか?押さえておきたい「ジェロントロジー」

 

◆関心が高まる概念

皆さんは「ジェロントロジー(老年学/加齢学)」をご存じでしょうか?
加齢により人はどのように変化するかを、心理・教育・医学・経済・労働・栄養・工学など様々な分野から学際的に研究する学問のことで、その成果は、雇用・教育・経済などに活用することができます(一般社団法人 日本産業ジェロントロジー協会の定義より)。高齢化の進行を受けて、今、このジェロントロジーは大きな注目を集め始めています。

 ◆シニア世代を貴重な戦力とするために必要な“老化”の知識

雇用延長、定年後の再雇用・再就職、役職定年制の導入などにより、若手世代がシニア世代の従業員を部下として扱う職場が増えています。その知識・技術・ノウハウを最大限に発揮してもらうためにはどうすればよいか、“年上部下”への対応に苦慮している管理職も少なくありません。シニア層の部下と仕事をするうえでは、「老化」についての知識と配慮は欠かせません。年齢を重ねると、筋力・視力・聴力・記憶力などが衰えます。こうした老化現象を理解していないと、例えば足腰が弱ったために動作が遅くなったり頼んだ仕事を忘れてこなしていなかったりなどといった場面をとらえて「やる気がない」とストレスがたまり、それが軋轢にもつながってしまいます。

 ◆シニア世代への対応とジェロントロジー

シニア世代を活用するために“老化”にどのように対応するか、考えてみましょう。視力が低下したのであれば、例えば、書類の文字のサイズを大きくしてみましょう。筋力が落ちた人には、身体労働は若手に任せることにして、その分、知識等を活かした頭脳労働に従事してもらいましょう。忘れっぽくなったのなら、指示を文書で出すようにすればよいのです。こうした対応を考えるうえで役立つのが「ジェロントロジー」の考え方です。これからのマネジメントを考えるうえで、学んでみると良い結果が得られるかもしれません。