2015年12月号

実態調査で明らかになった「学生アルバイト」をめぐるトラブル
 ◆「ブラックバイト」の実態把握

厚生労働省は、学生アルバイトをめぐる労働条件の実態を把握して対策を講じるため、今年8月下旬から9月にかけて、大学生や専門学校生等に対しアルバイトに関する意識等調査を行い、その結果を公表しました。調査は、全国の18歳~25歳の大学生、大学院生、短大生、専門学校生等を対象にインターネット上で実施。週1日以上、3カ月以上のアルバイト経験がある1,000人からの回答を集計したものです。

◆約6割が労働条件のトラブルを経験

まず、大学生等が経験したアルバイトの業種等は、コンビニエンスストア(15.5%)、学習塾(個別指導)(14.5%)、スーパーマーケット(11.4%)、居酒屋(11.3%)の順となっており、経験したアルバイト延べ1,961件のうち 58.7%で、労働条件通知書等が交付されていなかったと回答しました。労働条件については、口頭でも具体的な説明を受けた記憶がないアルバイトが19.1%に上り、48.2%(人ベースでは60.5%)が労働条件等で何らかのトラブルがあったと回答しました。中には、賃金の不払いや、労働時間が6時間を超えても休憩時間がなかったなどといった、労働基準法違反のおそれがあるものもありました。

◆トラブルの主なもの

<労働基準関係法令違反のおそれがあるもの>
・準備や片付けの時間に賃金が支払われなかった…13.6%
・1日の労働時間が6時間を超えても休憩時間がなかった…8.8%
・実際に働いた時間の管理がされていない…7.6%
・時間外労働や休日労働、深夜労働について、割増賃金が支払われなかった…5.4%
<その他労使間のトラブルと考えられるもの>
・採用時に合意した以上のシフトを入れられた…14.8%
・一方的に急なシフト変更を命じられた…14.6%
・採用時に合意した仕事以外の仕事をさせられた…13.4%
・一方的にシフトを削られた…11.8%

◆業界団体を通じて改善要請

これを受けて厚生労働省は、経団連や日本商工会議所に対し、法令を順守し、無理な人員配置はしないよう文書で要請をすることなどを決めました。また、今年12月から来年2月にかけ、高校生と大学生に労働関係法令の基礎知識を解説するセミナーを全国で開く計画です。

「ストレスチェック」義務化で注目される産業医の役割
 ◆今年12月から義務化

改正労働安全衛生法で定められた「ストレスチェックの義務化」が、今年12月1日より施行されます。労働者数50人以上の事業場では来年11月末までに、最低1回はストレスチェックを実施する必要があります(労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務)が、義務化を前に、大きな役割を担う「産業医」に注目が集まっています。その理由は、法律でストレスチェックの実施者は「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」でなければならないとされているからです。

 ◆実施者を誰にするか?

東京経営者協会が今年9月に行った「ストレスチェック制度に関するアンケート」の結果によると、ストレスチェック制度の実施体制について、回答した企業の28.9%が「産業医が実施者を兼務」、25.5%が「産業医が共同実施者(外部委託)」と回答していることからも、産業医に大きな期待が寄せられていることがうかがえます。なお、半数以上の企業がストレスチェック制度実施の課題として「産業医・外部機関との連携」を挙げています。

◆厚労省がリーフレットを公開

厚生労働省は、11月上旬に、産業医に関するリーフレット「産業医を選任していますか? 代表者が産業医を兼務していませんか?」を公開しました。このリーフレットでは、「常時50人以上の労働者を使用する事業場においては産業医を選任しなければならない」こと、「産業医の選任・変更の際には労働基準監督署に届け出なければならない」こと、「産業医として法人や事業場の代表者が選任されている場合は早期に改善すべきである」こと等が示されています。産業医を適正に選任していない、または産業医制度が機能していないケースは非常に多く、ストレスチェック制度を契機に見直しを図る企業が増えるものと思われます。

◆産業医制度自体の見直しも検討

なお、厚生労働省は、産業医の位置付けや役割について見直す必要性が出てきていることから、9月下旬より「産業医制度の在り方に関する検討会」を開催し、必要に応じて法令の改正も念頭に置いた検討を行う方針を示しています。将来的に何らかの法改正が行われる可能性が高いため、今後の動きに注目しておきましょう。

 

職場環境の良さをアピールして人材獲得につなげる!
 ◆「時間単位年休制度」とは?

働きやすい職場環境の構築に役立つとされ、厚生労働省もその導入を推奨する「時間単位年休制度」。労働基準法39条では年次有給休暇について規定されており、6カ月以上継続勤務し、かつ8割以上出勤した従業員に対して10日間の有給休暇が与えられることになっています。なお、日数は勤続年数に応じて増加していきます。従来、日単位または半日単位での年休取得が認められていましたが、2010年の法改正により、時間単位での有給休暇の取得が認められるようになりました。この制度を導入している企業は10%ほど(同省「就労条件総合調査」)のようですが、職場環境の良さをアピールできれば、採用にプラスとなるかもしれません。なお、時間単位年休制度を導入するには、(1)就業規則の変更、(2)労使協定の締結が必要となります。

 ◆「短時間勤務制度」とは?

3歳に満たない子を養育する従業員については、従業員が希望すれば利用できる短時間勤務制度を設けなければならないとされています(育児・介護休業法)。また、就業規則等に明記して制度化することが必要です。必ず導入しなければならない制度であれば、それを有効に活用することも必要でしょう。ただ最近、資生堂の有給休暇、短時間勤務制度の方針転換が報道され、「資生堂ショック」などと言われています。同社では女性が多い職場ということもあり、20年以上も前から先進的に制度を導入してきました。しかし、短時間勤務の伸展にともない売上が大きく減少してしまったとのことです。育児時間を取るのが当たり前になってきて、“甘え”が出てきたり、取るという権利だけ主張したりという状態になっていたとも報道されています。また、従業員の間でも、業務量の偏りや取得者の配慮のなさからの不公平感も大きくなってきていたようです。

 ◆シフト等の工夫も

人材獲得のためには、制度を整えるほかにシフト等を工夫し、かつそうした働きやすさを求職者にわかりやすくアピールすることも有効ですが、導入の仕方には検討するべきポイントも多いようです。

職場における「ハラスメント・嫌がらせ」の実態
 ◆職場で嫌がらせを受けたことがある人は約9割

全研本社株式会社が運営する働き方と天職を考えるウェブマガジン『瓦版』が、サイトユーザーを対象に実施した職場のハラスメント調査(回答者316人。男性139人、女性177人。年代は、10代2人、20代121人、30代100人、40代70人、その他23人)によると、「会社で嫌がらせを受けたことがある」と答えた人が9割に上ったことがわかりました。

 ◆「モラルハラスメント」がトップ

受けたことがある嫌がらせの種類としては「モラルハラスメント」と答えた人が83.2%、以降、「エイジハラスメント」(25%)、「セクシュアルハラスメント」(21.5%)、「アルコールハラスメント」(15.2%)等と続いています。その他、「スモークハラスメント」「テクノロジーハラスメント」「マリッジハラスメント」「スメルハラスメント」「パワーハラスメント」「マタニティハラスメント」と挙がっていますが、ハラスメントにも様々な種類があることがわかります。

 ◆具体的な事例

具体的にどのような嫌がらせと受けたかというと、「気に入らないという理由だけで根拠のないうわさを社長へ話す」、「休日にメールで文書による嫌がらせ」、「同じミスでも若い子には怒らず50代の私は叱責される」、「明らかに無理な勤務内容」などの事例が並びました。「嫌がらせ」の内容は様々ですが、中には「暴力を受けた」など明らかに問題のある事例も挙がっています。

◆ハラスメントを放置することのリスク

今回の調査では「嫌がらせを受けたことがある」と答えた人が9割と、かなり多い結果となっています。「嫌がらせ」と受け取られる事例にも様々あり、ある行動を「嫌がらせ」と受け取るかどうかは、受け取り側の主観もある程度影響しますが、社員が「嫌がらせ」を認識してストレスを感じている場合、メンタルヘルスの問題や労使トラブルの原因にもつながり、そのような状況を放置することは、会社としてリスクが伴います。また、ハラスメントが蔓延しているような状況では、企業の生産活動にも大きな影響を与えかねませんので、社内風土の改善という意味でも、社員の態度や社員間のやり取りには会社としても必要な範囲で目を配っていくことが求められるでしょう。