2020年10月

コロナと整理解雇

 

◆予断許さず

新型コロナについては、指定感染症からは外す方向で議論が進められるようです。しかし、すでに緊急事態宣言がなされてから痛手を負っている企業も多く、今後の景気回復も急激に良くなるとの予想はされていませんし、倒産や解雇の増加という波が時間差でやってくるとも予想されます。また、冬に向けて、新型コロナ感染者のさらなる増加や、ウイルスの変異による感染力の増強、さらに別のウイルス等による感染症の発生なども考えられます。

今は何とか持ちこたえている企業でも、企業体力や今後の情勢によっては、コロナ禍による業績の落込みから、正社員の整理解雇等を検討せざるを得なくなるかもしれません。

いくら「コロナだから。緊急事態だから」と言ってみても、裁判例上は、コロナによる業績の落込みは、天災地変等のやむを得ない事由ではなく、経営上の理由による解雇と扱われる場合がほとんどと思われます。正社員の整理解雇は、ご存じのように厳格な要件(要素)で判断されます(整理解雇の4要素)。

 

◆可能な限り解雇を回避する

この4要素の一つとして「解雇回避努力義務の実行」があります。整理解雇の実施にあたっては、可能な限り雇用を確保(解雇せざるを得ない場合でも労働者の負担をなるべく軽減)するべく、取れる方策を模索し、準備しておくべきです。

・転勤・出向等による異動

・休業手当を支払って自宅待機等を命令(一時帰休、再就職支援休暇など)

・休業手当相当の退職一時金を支払い、雇用契約を合意解約

・訴訟となるリスクを考慮しつつ、退職金の上積み等を提案し、退職勧奨

というような方策が考えられます。

 

◆就業規則等の確認を

また、そうした方策をとる前提として、一時帰休の際の賃金の扱い(休業手当相当額を減額する規定)、コロナ等の事態が発生した場合の整理解雇があり得ること等は、就業規則や個別の労働契約に明記しておくことが重要です。

コロナ等による整理解雇に備え、説明資料や社員の説得のための資料なども、事前に準備しておくべきでしょう。

コロナや災害等の際の人事・労務の取扱いについて、社員からの質問等にしっかりと答えられるよう、人事・総務担当者が使えるより細かいFAQのような形でまとめておくと、会社としての統一的対応が図れ、担当者の負担も減るでしょう。

 

 

テレワークの実施状況と企業の採用活動への影響

 

◆導入が広まったテレワーク

これまでは大企業やスタートアップ企業などでの導入が目立っていたテレワークですが、今年は新型コロナウイルス感染リスク防止の観点から急速に導入が広まりました。特に、緊急事態宣言が出された4~5月に、緊急対応的に始めた企業も多かったのではないでしょうか。

しかし、緊急事態宣言後、またテレワークの実施率にも変化が見られるようです。

 

◆テレワーク実施率の減少

厚生労働省が、LINE株式会社と協力して5回にわたり実施している「新型コロナ対策のための全国調査」によれば、最新の第5回調査(8月12-13日)では、第4回調査(5月1-2日)と比べて、オフィスワーク中心の人で「仕事はテレワークにしている」とした回答が40.8%⇒23.5%と低下していることがわかります。緊急事態宣言解除後に、一時的に実施していたテレワークを減らしたり、やめたりした例が多いことが読み取れます。

 

◆テレワークは企業の採用活動にも影響

実際に、業種によってはテレワークの実施が難しいという例もあるでしょうし、社内制度やインフラが整わずに実施できないという例も多いようです。ただ、一度テレワークを経験してきた人たちは、その便利さなどを経験してしまっていることから、元の意識に戻ることはなかなかできません。

株式会社リクルートキャリアが、全国の20~60代の就業者を対象に実施した新型コロナウイルス禍での仕事に関するアンケート(調査期間は8月7日~10日)によれば、転職検討中/活動中の人で、仕事選びの重視項目として「テレワークが認められている」を重視するようになった人の割合が大幅に増えているそうです。実際に、オンライン型転職エージェント「ジョブクル転職」を運営する株式会社スマイループスが実施した求人動向調査でも、求人タイトルに「在宅」または「テレワーク」が含まれる求人は、含まれない求人と比較して128%の高い応募率であることがわかったそうです。

 

◆変わる働き方

いま、働き方の意識は確実に変化してきています。テレワークの実施状況が今後の企業経営に与える影響は未知数ですが、今後、労働者の意識の変化にも目を向けながら、自社に最適の制度を検討していく必要があるでしょう。

 

 

9月から複数事業労働者向けの労災保険給付が始まりました

 

◆改正の趣旨

これまでは、複数の会社で働いている労働者の方について、働いているすべての会社の賃金額を基に保険給付が行われないこと、すべての会社の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を合わせて評価して労災認定されないことが課題でした。

このため、多様な働き方を選択する方やパート労働者等で複数就業している方が増えているなど、副業・兼業を取り巻く状況の変化を踏まえ、複数事業労働者の方が安心して働くことができるような環境を整備する観点から、労働者災害補償保険法が改正されました。

 

◆改正の対象者

今回の改正制度の対象となるのは「複数事業労働者」の方です。「複数事業労働者」とは、被災した(業務や通勤が原因でけがや病気などになったり死亡した)時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者の方のことをいいます。

被災した時点で複数の会社について労働契約関係にない場合であっても、その原因や要因となる事由が発生した時点で、複数の会社と労働契約関係であった場合には「複数事業労働者に類する者」として、改正制度の対象となります。また、労災保険に特別加入している方も対象になります。

 

◆改正内容

① 複数事業労働者の方への保険給付が、すべての働いている会社の賃金額を基礎に支払われるようになります(これまでは災害発生事業場での賃金額しか保険給付の基礎とされていませんでした)。

② 新しく複数の事業の業務を要因とする傷病等(負傷、疾病、障害または死亡)についても、労災保険給付の対象となります。新しく支給事由となるこの災害を「複数業務要因災害」といいます。なお、対象となる傷病等は、脳・心臓疾患や精神障害などです。

複数事業労働者の方については、1つの事業場のみの業務上の負荷(労働時間やストレス等)を評価して業務災害に当たらない場合に、複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できるか判断します。これにより労災認定されるときには、上記の「複数業務要因災害」を支給事由とする各種保険給付が支給されます。

1つの事業場のみの業務上の負荷を評価するだけで労災認定の判断ができる場合は、これまでどおり「業務災害」として、業務災害に係る各種保険給付が支給されます。なお、この場合であっても、すべての就業先の事業場の賃金額を合算した額を基礎に保険給付されます。

③ 労災保険には、各事業場の業務災害の多寡に応じ、労災保険率または保険料を増減させる、メリット制があります。新設の複数業務要因災害については、メリット制には影響しません。一方、複数事業労働者の業務災害については、業務災害が発生した事業場の賃金に相当する保険給付額のみがメリット制に影響します。

 

対象事業場の約半数で違法残業を確認~令和元年度監督指導結果より

 

◆15,593事業場で違法な時間外労働確認

9月8日、厚生労働省は令和元年度の長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表しました。

働き方改革関連法による時間外労働の上限規制が令和元年4月1日より中小企業にも適用されたこと等もあってか、対象事業場数は平成30年度の29,097から約1割増の32,981で、そのうち15,593(47.3%。平成30年度は11,766(40.4%)で違法な時間外労働が確認され、指導が行われています。

 

◆健康障害防止措置に関する指導状況

監督指導の実施事業場のうち15,338(46.5%)で、健康障害防止措置が不十分として、長時間労働者に対する医師面接等を講じるよう指導が行われています。平成30年度の20,526(70.5%)に比べて減少していますが、まだまだ多いことがわかります。

 

◆対象事業場の7割近くが30人未満、企業規模別では3割近くが300人以上

事業場規模別に見ると、監督指導実施事業場の41.7%を10~29人の事業場が、25.3%を1~9人の事業場が占めており、30人未満の事業場で約7割を占めています。平成30年度と比べてこの割合は増えており、これらの事業場で特に注意が必要といえます。

企業規模別に見ると、29.3%が300人以上、24.7%が10~29人、12.8%が100~299人となっています。こちらも平成30年度に比べて30人未満の割合が増えています。

 

◆「商業」の事業場で是正勧告が急増

監督指導の対象事業場32,981のうち、商業の事業場は8,009(24.3%)で、そのうち6,088(76.0%)で労働基準関係法令違反がありました。平成30年度の4,647事業場への実施と3,097事業場での違反に比べると、ほぼ2倍となっています。

 

◆11月には「過重労働解消キャンペーン」も実施

厚生労働省では、11月に「過重労働解消キャンペーン」を実施し、重点的な監督指導を行うとしています。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月17日に発出された依命通達では、中小企業等に対する相談・支援について、「労働基準関係法令に係る違反が認められた場合においても、新型コロナウイルス感染症の発生および感染拡大による影響を十分勘案し、労働基準関係法令の趣旨を踏まえた自主的な取組みが行われるよう、きめ細かな対応を図る」ともされていますが、自社の時間外労働の実施状況や健康障害防止措置に関する対応に問題がないか、改めて確認しておき、不安がある場合は速やかに専門家に相談しましょう。