2023年11月

建設業の時間外労働の傾向

建設業については、適用が猶予されていた時間外労働の上限規制が、来年4月から開始されます。

◆時間外労働の傾向に業種の差

建設業の時間外労働については、帝国データバンクの「建設業の時間外労働に関する動向調査」(2023年8月時点)によると、次のように建設業全体の時間外労働時間は前年を下回っているものの、以下のように業種により増加している実態もみられました。
「建設業」の時間外労働時間DI(※) 48.8
…「はつり・解体工事業」 54.4
…「内装工事業」 52.4
…「建築工事業(木造建築工事業を除く)」 51.8
…「鉄骨工事業」 51.6
※ 時間外労働時間DIは、前年同月と比べて時間外労働時間が「非常に増加した」~「非常に減少した」までの7段階で質問し、算出した値。DIは0~100の値をとり、50超が増加、50未満は減少を表している。

◆業種に応じた対策を

「建設業」としては48.8(年平均でも48程度)で減少となっており、中には土木工事業(造園工事業を除く)で44.8といった業種もありますが、上に挙げた業種はこの1年を通して見たときも、50を超えることが多いようです。
一口に建設業といっても業種により特徴があります。また、この調査結果を見ると、季節的な繁閑のタイミングにも業種の差があるようです。
来年4月1日まで残された時間は多くありません。それぞれの業種の特性を踏まえ、時間外労働対策や時差出勤、テレワーク、時間年休といった取組みを早急に具体化していく必要があります。
一方、人材確保のためには、社内コミュニケーションを促進するなどの職場環境の改善も必要です。さまざまな課題がありますが、一つひとつ取り組んでいきましょう。
【帝国データバンク「建設業の時間外労働に関する動向調査(2023年8月)」】
https://www.tdb-di.com/2023/09/sp20230926.pdf

 

「年収の壁」への当面の対応・支援強化パッケージの詳細が発表されました

 

厚生労働省は、労働者が社会保険料の負担による手取り収入の減少を避けるために就業調整をする、いわゆる「年収の壁」問題への当面の対策として、支援強化パッケージの詳細を発表しました。パッケージは、10月から順次実施されます。

 

◆106万円の壁への対応

・キャリアアップ助成金のコースの新設

短時間労働者を新たに被保険者とする際に、労働者の収入を増加させる取組みを行った事業主は、一定期間助成(労働者1人当たり最大50万円)を受けることができます。

助成対象の取組みには、賃上げや所定労働時間の延長のほか、保険料負担に伴う手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含まれます。

・社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外

事業主は、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給できます。また、労使双方の保険料負担を軽減する観点から、社会保険適用促進手当については、労働者負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しません。

 

◆130万円の壁への対応

・事業主の証明による被扶養者認定の円滑化

直近の年間収入が、被扶養者の認定の要件である130万円を超える見込みとなった場合、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等に加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、直ちに被扶養者認定を取り消されることはなく、総合的に将来収入の見込み額から判断し、迅速な認定を受けることができます。

 

◆配偶者手当への対応

・企業の配偶者手当の見直し促進

令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で、中小企業においても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表します。また、各地域で開催されるセミナーで説明、中小企業団体等を通じての周知活動を行います。

【いわゆる「年収の壁」への当面の対応について(令和5年9月27日 全世代型社会保障構築本部決定)】

https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001150697.pdf

 

中途採用は即戦力重視の傾向が顕著
~マイナビ「中途採用実態調査(2023年)」より

 

株式会社マイナビが、2023年1~7月に中途採用を行った企業の人事担当者を対象(有効回答数1,600件)に「中途採用実態調査」を実施し、その結果を公表しました。

 

◆「即戦力の補充」のため、中途採用を実施

まず、直近半年(2023年1~7月)の正社員の過不足感について、「余剰」が27.3%(前年比1.9ポイント増)、「不足」が43.1%(前年比0.2ポイント減)となり、人手不足の状況が変わっていないことがわかります。また、役職やスキル別では、「スペシャリスト人材(IT人材など)」の不足が最も多く47.9%でした。

中途採用を実施した理由についての質問では、「即戦力の補充」が48.1%で最も多く、企業は専門的な知識やスキルを持っている人材を求めていることがうかがえます。なお、運輸・物流業では、「労働時間短縮への対応」が33.7%と全体平均より10ポイント以上高く、来年4月からトラックドライバーなどの残業時間上限規制が始まるため、「2024年問題」に向けた人材確保を進めていると考えられます。

 

◆今後の中途採用活動について

中途採用活動の課題についての質問では、「求職者の質が低い」が36.3%で最も高く、次いで「入社後、早期退職してしまう社員が増加している」が30.3%でした。

また、今後の中途採用の意向について、「積極的」が53.8%(前年比0.9ポイント増)で、「消極的」の8.1%を大きく上回りました。特に経験者採用を積極的に行うという回答(52.1%)も、未経験の採用を積極的に行うという回答(41.6%)を上回りました。

さらに、今後の採用基準については、「書類選考」「面接」ともに「厳しくする予定」と回答した企業が増加しました。企業は今後、より良い人材を厳選して採用していく方針であることも感じられます。

【マイナビ「中途採用実態調査(2023年)」】

https://www.mynavi.jp/news/2023/09/post_39891.html

 

増加する「ビジネスケアラ―」と介護離職防止対策

 

◆増える「ビジネスケアラ―」

「ビジネスケアラ―」とは、仕事をしながら家族等の介護を行う人を指す言葉で、経済産業省によると、2030年をピークに318万人に達すると推計されています。また、これによる経済損失は約9兆1,792億円にのぼるともいわれています。

 

◆介護離職防止の企業向けガイドライン

厚生労働省は、会社員が家族等の介護で離職するのを防ぐ目的で、企業向けの指針をまとめると発表しました。この指針には、企業が介護休業や休暇制度、介護保険サービス等について対象従業員に周知させたり、外部の専門家と連携し、介護事業所に提出する書類作成を肩代わりしたり、相談窓口を設置したりと、従業員の介護離職を防ぐ取組みを促す内容が盛り込まれる予定です。

 

◆介護のための短時間勤務制度がある会社は約8割

人事院の調査によると、介護のための短時間勤務がある企業は78.4%となっています。そのうち、短縮する週当たりの時間数の上限や、短時間勤務を行える期限の上限を設けている企業はいずれも88%以上を占めています。

 

◆介護離職防止において企業が求められること

育児・介護休業法に基づいて、既に休業・休暇制度を設けている企業は大多数だとは思いますが、従業員に周知されていなかったり、運用がうまくいっていなかったりするケースもあるようです。今年度中にも、介護離職防止の企業向けガイドラインが整備される予定ですので、ガイドラインが出て慌てて対応することのないよう、自社の制度をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。

【経済産業省「介護政策」】

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo_page.html

【人事院「令和4年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要」】

https://www.jinji.go.jp/kisya/2309/r05akimincho_bessi.pdf