2016年4月号

企業に広がる有期契約労働者の「無期転換」の動き
 ◆再来年4月から本格適用

2013年4月に施行された、有期契約の労働者でも、契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合に無期契約への転換を求める権利が与えられる労働契約法18条のいわゆる「5年ルール」の規定が、再来年の2018年4月から順次適用になります。有期契約が更新されない「雇止め」の不安を解消し、安定して働けるようにするのが目的とされています。

 ◆「無期契約」に変える企業が増加

ここ最近、パート社員や契約社員などの「有期契約」で働く人を「無期契約」に変える企業が増えているようです。背景には「人手不足の中で人材を安定的に確保したい」という考えがあるようです。労働政策研究・研修機構の調査(2015年7~9月)によると、法改正に対応し何らかの方法で「無期にしていく」と回答した企業は6割を超えました。厚生労働省では、ホームページ上で導入企業の実例(現時点で9社)を紹介しています。

 ◆当初の懸念はあたらず?

法改正時に心配されていたのは、企業が無期転換を避けるために5年より前に「雇止め」にしたり、強引に5年以内の契約上限を設けたりするという動きでした。しかし、今のところそうした動きは少ないようです。企業側も、無期にするメリットとして「長期勤続が期待できる」「要員を安定的に確保できる」という理由を挙げた割合が増えているようです。景気の回復基調のなか、人手不足により人材を囲い込むメリットがあると考える企業が増えています。

 ◆経団連も検討を後押し

経団連は、今後は人材獲得が困難になるとして、「無期転換の仕組みを整備することは労働者への大きなアピールとなり、前向きに検討すべきだ」としています。ただ、企業は無期転換しても賃金を変える必要はありません。労働政策研究・研修機構の調査でも4分の1程度の企業が「対応方針は未定・わからない」と答えています。

「仕事と介護の両立問題」に対応するための法改正&新設助成金
 ◆年間10万人超の介護離転職者が発生

内閣府の「2015年版高齢社会白書」によると、2011年10月から2012年9月までにおける介護や看護を理由とする離転職者数は10万1,001人だったそうです。離転職者の内訳は、男女ともに50代および60代が約7割を占め、企業にとっては要職者を失うリスクにさらされていると言えます。また、この問題は団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降に一層深刻になると見られていることから、法改正と助成金の新設・拡充の両面で対策に取り組む動きがあります。企業としては、人材確保のためにもこうした動きを押さえておく必要があります。

 ◆「介護離職ゼロ」に向けた改正法案の審議スタート

国会では、育児や介護と仕事の両立を支援する雇用保険法などの改正案が3月8日に審議入りしました。法案では、93日までの連続取得という制度設計で、利用率が低迷していた介護休業制度を最大3回までの分割取得を可能とするほか、対象家族を非同居・非扶養の祖父母や兄弟姉妹、孫にも拡大するとしています。また、介護休業者の所得保障となる介護休業給付金の支給率について、休業前賃金の40%から67%に引き上げるとしています。さらに、育児と仕事の両立支援や高年齢者の就労支援の施策も盛り込まれており、政府・与党は3月中に法案を成立させ、4月以降順次施行したい考えです。

 ◆助成金の新設

厚生労働省は、2016年度より「介護支援取組助成金」(仮称)を新設することを公表しました。
(1)従業員の仕事と介護の両立に関する社内アンケート実施、(2)介護に直面する前の従業員への社内研修の実施、リーフレットの配布、(3)介護に直面した従業員向け相談窓口の設置および周知を行った企業に対し、60万円を支給するものです。

 ◆助成金の拡充

「中小企業両立支援助成金 育休復帰支援プランコース」は、正社員、期間雇用者それぞれ1人について、社会保険労務士など専門家のアドバイスのもと「育休復帰支援プラン」を策定し、育休取得したときに30万円、職場復帰したときに30万円を支給するものですが、拡充後は、早ければ10月から介護休業についても対象となる予定です。

 

平成27年の労働災害発生状況にみる課題とは?
 ◆全体では微減だが…

平成27年における死傷災害発生状況(2月速報)が発表されました。産業全体として前年比などを見た場合、死傷災害はわずかに減少しています。しかし、その内訳を見てみると、「建設業」や「製造業」では大きく減っているものの、近年の傾向として第三次産業での災害が大きく増加しています。その中でも特に増加しているのが「保健衛生業」です。介護士・看護師など病院や社会福祉施設で働く方が該当します。平成25年時点と比較して社会福祉施設での死傷災害は15.9%増加しているということです。

 ◆腰痛と労働者の高齢化

保健衛生業については、「動作の反動・無理な動作」が特に多く、腰痛が職業病のようになっています。次いで、「転倒」も多くなっています。また、社会福祉施設では、死傷災害の半数が40歳から59歳の層で発生しているというデータもあり、これからの労働力人口の高齢化と併せて、この点はますます重要な課題となるでしょう。厚生労働省でも、こうした災害防止のための指針等を作成するなどの施策は行っているようですが、一向に減る傾向はありません。

 ◆介護ロボット等の普及にも時間がかかる

最近では、介護を支援するロボット等、人間の労働をアシストするようなロボット・機器市場が注目されつつあります。しかし、どんな事業所でも導入できるというほどまでにはなっていないようです。介護機器の導入により、腰痛による休業、早期退職、退職に伴う交代要員の補充等、労務管理面でも手間の軽減に効果があるとされていますが、現状では、現場で業務にあたる個々人の体の使い方を含めた就労環境を見直していくことで対処するのが現実的かつ必要なことのようです。また、腰痛は体の局所的な酷使のほか、ストレスによっても誘発される場合もあります。ストレスチェック制度がスタートし、これから健康診断のシーズンを迎えますので、この機会に安全衛生や健康管理体制の整備状況について確認してみてはいかがでしょうか。

 

社員の転職理由の「本音」と「建て前」
 ◆転職市場は盛況

株式会社インテリジェンスが発表した「DODA 転職求人倍率レポート」によると、2016年2月の転職求人数は前月比104.9%・前年同月比145.3%となり、15カ月連続で、調査開始2008年1月以来の最高値を更新しているそうです。転職希望者数も前月比6.5%増、前年同月比56.8%増となり、6カ月連続で最高値を更新しており、転職市場は引き続き盛況なようです。このような人材の活発な流動化中では、企業にとっては人材確保が大きな問題になります。

 ◆会社に伝える退職理由と本当の理由

転職する場合、当然ながら現在の仕事を辞めなければなりません。社員の退職理由からは、会社の問題点が浮き彫りになることもありますが、会社に退職の意思を伝えてくる際の退職理由が本音ばかりとは限りません。エン・ジャパン株式会社が行った「退職理由のホンネとタテマエ」についてのアンケート調査(回答1,515名)によると、 約半数の人が会社に本当の退職理由を伝えていないことがわかりました。会社に伝えた退職理由と本当の退職理由は以下のようなものです。

【会社に伝えた退職理由】
(1)結婚、家庭の事情(23%)
(2)体調を崩した(18%)
(3)仕事内容(14%)

【本当の理由】
(1)人間関係(25%)
(2)評価・人事制度(12%)
(3)社風や風土、給与、拘束時間(各11%)

◆社員の本音から考える

この調査からわかることは、社員が伝える退職理由は本音からは離れていることがままあるということです。退職者が多い会社というのは、「本当の理由」として挙がっている例から想像される通り、相対的に会社の雰囲気が悪かったり、待遇面で不満を持つ社員が多かったりする会社とも見られてしまうわけですから、求職者も離れていきます。退職者の本音と建て前を見極めながら対策を講じていくことも必要でしょう。