2016年6月号

平成28年度「年度更新」手続のポイント
◆雇用保険料率は「引下げ」

労働保険の保険料は、年度当初に概算で申告・納付をし、翌年度の当初に確定申告のうえ精算します。つまり、年度更新手続は、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付する手続きです。この保険料とは「労災保険料」と「雇用保険料」ですが、保険料算出に使用する保険料率が、労災保険料率は前年度から変更ないものの、雇用保険料率は引き下げられ、一般の事業1000分の11(前年度1000分の13.5)、農林水産・清酒製造の事業1000分の13(前年度1000分の15.5)、建設の事業1000分の14(前年度1000分の16.5)となっています。

◆手続きに必要な様式等の入手方法

必要な様式やツール等は、厚生労働省のホームページに随時アップされます。今年度は、申告書の送付は5月末からスタートし、提出は6月1日から7月11日までの間に行いますが、事前に準備できるものは早めに取り掛かっておきましょう。

 ◆「法人番号」の記載が必要に

申告書の様式が変更され、「法人番号欄」」が追加されています。法人番号とは、国税庁から通知された13桁の番号で、この番号を記入します(1法人につき1つ割り当てられるので、支店や事業所においても同じ番号を記入します)。個人事業主の行う事業については、法人番号欄の13桁すべてに「0」を記入します。

◆建設の事業は消費税の取扱いに注意

建設の事業で労務費率により保険料の算定基礎となる賃金総額を算出する場合、前年度中に終了した事業については、事業の開始時期により消費税率等に係る暫定措置の適用の有無が異なります。詳細は厚生労働省ホームページ等で確認しておきましょう。

 ◆熊本・大分における地震の被害に伴い労働保険料等の納付猶予を受ける場合

今年4月に熊本県・大分県を中心に発生した地震により、事業の経営のために直接必要な財産(事業財産)に相当の損失(おおむね20%以上)を受けた事業主は、「納付猶予申請書」および「被災証明書」を提出することにより、一定期間その納付の猶予を受けることができます。この申請は、年度更新申告書の提出とともに行うことも可能ですが、被害額が申告書の提出までに確定しない場合は、災害が止んだ日から2月以内に行います。

 

調査結果にみる「育児と介護のダブルケア」を行う者の就労実態
 ◆ダブルケア世帯の問題

昨今の晩婚化・晩産化等を背景に、育児と親の介護を同時に担う、いわゆる「ダブルケア」世帯の問題が注目されています。特に仕事との両立が難しく、仕事を辞めざるを得なくなるなど、深刻な問題を抱えています。このたび、内閣府男女共同参画局から「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書」が発表され、ダブルケアを行う者の就労の実態が明らかになりました。

 ◆ダブルケアの推計人口、年齢構成

ダブルケアを行う者の人口は約25万人(うち女性は約17万人、男性は約8万人)で、年齢構成としては30歳~40歳代が多く、男女ともに全体の約8割を占めています。

 ◆ダブルケアに直面する前後の業務量や労働時間の変化

ダブルケアに直面したことで、「業務量や労働時間を減らした」人は、男性で約2割、女性では約4割で、そのうち離職して無職となった人は男性で2.6%、女性で17.5%となりました。主な理由として、男性では「介護者を施設に入所させることができなかった(31.4%)」、「勤め先の勤務状況では両立が難しかった(26.3%)」ことが挙げられ、女性では、「家族の支援が得られなかった(27.9%)」、「子育て・介護は自分でやるべき(25.7%)」、「勤め先の勤務状況では両立が難しかった(22.1%)」となっています。

 ◆勤め先に望む支援策とは?

勤め先に望む支援策として、男女とも「最も充実してほしい」と回答したのは、「子育てのために一定期間休める仕組み」が一番多く、次いで「特にない」となりました。男性より女性で望む声が多かったものとしては、(1)「休暇・休業を取得しやすい職場環境の整備」(男女差5.1%ポイント)、(2)「制度を利用する際の上司や同僚の理解」(同2.4%ポイント)、(3)「テレワークや在宅勤務等の導入(同2.4%ポイント)」、(4)「柔軟な労働時間制(フレックスタイム制等)」(同1.8%ポイント)です。女性より男性で望む声が多かったものとしては、(1)「残業をなくす/減らす仕組み」(男女差3.7%ポイント)、(2)「介護のために一定期間休める仕組み」(同2.2%ポイント)、(3)「介護サービスに関する情報提供」(同2.1%ポイント)、(4)「介護のために一日単位で休める仕組み」(同1.3%ポイント)、(5)「所定労働日数を短くする仕組み」」(同1.3%ポイント)となりました。

 人材不足問題は依然深刻… 採用すべき人材を確保するために
 ◆2016年は「人材不足問題」が企業経営を圧迫する?

2016年の業績見通しについて、中小企業経営者はどのように考えているのかを尋ねた、学校法人産業能率大学の調査結果が公表されています。これによると、多くの経営者が業績は2015年と同様か良くなるとの見方を示しましたが、一方で「人材の不足」が経営活動に影響を与えると想定しており、業績を上げる機会を人材不足によって逸することのない対策を講じることが急務となっています。人材不足問題は依然深刻であり、人材の確保はまさに優先度の高い経営課題となっていると言えるでしょう。

 ◆厳しいのは新卒採用

中小企業にとっては、特に新卒採用活動が厳しい状況です。同調査では、2016年入社の新卒採用について、およそ4割が当初の採用予定数を下回るという結果となりました。代わって活発化しているのが中途採用です。恒常的な人員不足の解消や欠員の補充、即戦力となる人員の確保をねらい、半数以上が中途採用の予定があると回答しました。

 ◆これからの採用活動に求められること

新卒採用にせよ中途採用にせよ、人材不足が深刻化している状況にあって、現在、採用選考を行うにあたり「いかに良質な母集団を形成するか」に関心が集まっています。採用すべき人材と接点を持つためのアプローチ方法の確立が望まれます。Facebook等のSNSを有効活用しようとする企業も多くなりましたが、一歩進んで、SNSなどのデータベースから人材を探し、直接連絡を取って採用するというダイレクトリクルーティングもよく見られるようになってきました。「従来の踏襲では確実に競合に負ける」と言われています。様々な手法を積極的に検討しながら、自社の風土等も踏まえた採用活動を行うことが求められています。

厚生労働省の支援策で「無期転換ルール」対応は進むか?
 ◆平成30年度から本格化

有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって企業などが無期労働契約に転換しなければならない「無期転換ルール」は、平成30年度から本格的にスタートします。厚生労働省は、このルールに関して平成28年度に実施する以下の支援策を4月下旬に発表しました。
(1)無期転換制度の導入支援のための「モデル就業規則」の作成
(2)無期転換制度や「多様な正社員制度」の導入を検討する企業へのコンサルティングを実施
(3)無期転換ルールも含めた「労働契約等解説セミナー」を全国で208回開催
(4)無期転換制度や「多様な正社員制度」についてのシンポジウムを開催
(5)先進的な取組を行っている企業の事例を厚生労働省のホームページなどで紹介
(6)無期転換制度の導入手順などを紹介するハンドブックを作成
(7)キャリアアップ助成金を拡充
(8)都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))に専門の相談員を配置

◆無期転換対応の動きが進むか?

独立行政法人労働政策研究・研修機構が昨年12月に実施した調査によると、労働契約法に基づく「無期転換ルール」について66.1%の企業が「何らかの形で無期契約にしていく」と回答したそうです。厚生労働省の支援策発表を受けて、企業における無期転換ルール対応の動きが本格化していくことが見込まれます。

 ◆業種別のモデル就業規則

なお、上記支援策のうち(1)のモデル就業規則については、「小売業向け」および「飲食業向け」のものはすでに厚生労働省が作成しており、同省ホームページでダウンロードすることができます(「多様な正社員 厚生労働省」で検索)。それぞれ42ページにわたるもので、「無期転換ルール」のみならず「多様な正社員制度」にも対応するものとして詳細な解説も付いており、小売業および飲食業における就業規則作成の際には大変参考になります。今後は他の業種についても作成が行われる予定となっています。