2020年8月

精神障害の労災が最多に~令和元年度「過労死等の労災補償状況」より

 

◆仕事が原因で精神疾患 労災申請・認定ともに最多

令和元年度の「過労死等の労災補償状況」が公表されました。厚生労働省は、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、平成14年から、労災請求件数や労災保険給付を決定した支給決定件数などを年1回、取りまとめています。

本調査によれば、仕事が原因で精神疾患にかかり令和元年度(2019年度)に労災申請したのは2,060件、支給決定件数は509件となり、いずれも統計開始以降最多でした。

◆業種別では「医療・福祉」が最多

請求件数でみると、業種別(大分類)では、「医療、福祉」426件、「製造業」352件、「卸売業、小売業」279件の順に多くなっており、支給決定件数でみると、業種別(中分類)では、「社会保険・社会福祉・介護事業」が48件と最も多く、次いで「医療業」(30件)、「道路貨物運送業」(29件)と続きました。年齢別では、請求件数は「40~49歳」639件、「30~39歳」509件、「20~29歳」432件、支給決定件数は「40~49歳」170件、「30~39歳」132件、「20~29歳」116件の順に多くなっています。

 

◆パワハラ法制化による労災認定基準の改正

令和2年5月29日付けで精神障害の労災認定の基準が改正され、具体的出来事等に「パワーハラスメント」が追加されました。労災認定基準にパワハラの類型が新設されたことで、より早期にパワハラの問題が認識されることになります。会社にとっては、一層パワハラ問題も意識した対策が必要になってくるでしょう。

 

◆新型コロナウイルス感染症の影響

また、現在新型コロナウイルスの流行により、治療に当たる医療関係者はじめエッセンシャルワーカー等のメンタルヘルスの問題がたびたび話題に上っています。新型コロナウイルス感染症による働き方や環境の変化に伴い業務過多が生じ、結果的に長時間労働に陥ってしまうというようなケースもあります。

今後、様々な変化を踏まえ、企業としても労災が起きないような環境づくりに取り組んでいきたいところです。

 

 

テレワークで長時間労働~連合調査より

 

◆調査で明らかになったテレワーク実態

日本労働組合総連合会(以下、連合)は、テレワークで働く人の意識や実態を把握するため、「テレワークに関する調査」を公表しました。調査では、「通常の勤務よりも長時間労働になることがあった」と半数超(51.5%)が回答しました。テレワークでは、仕事と仕事以外の切分けが難しく、長時間労働になりやすいという問題が以前から指摘されています。これらを実感した労働者が多かったことがわかります。それでも、テレワークの継続を「希望する」と回答した人は 81.8%となり、多くの人がメリットを感じたことがわかります。しかし、この調査で気になるのが、労働時間管理についてです。時間外・休日労働をしたにもかかわらず申告していない回答者が 6 割超(65.1%)、また時間外・休日労働をしたにもかかわらず勤務先に認められないという回答者が半数超(56.4%)いました。

 

◆テレワークでも労働時間管理は必要

テレワークであろうと労基法は適用されます。みなし労働時間制が適用される労働者や労基法第41条に規定する労働者を除き、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づいて、適切に労働時間管理を行わなければなりません。実労働時間やみなされた労働時間が法定労働時間を超える場合や法定休日に労働を行わせる場合は、36協定の締結、届出及び割増賃金の支払いが必要です。また、現実に深夜に労働した場合は、深夜労働に係る割増賃金の支払いが必要です。これらを放置すれば、労務トラブルに発展しかねません。

 

◆実態にあった適切な労働時間管理を

時間外労働等について労働者からの事前申告がなかったり、申告に対して許可を与えなかった場合でも、業務量が過大であったり、明示、黙示の指揮命令があったと解しうる場合には、労働時間に該当します。テレワークを行う労働者は、業務に従事した時間を日報等において記録し、使用者はそれをもって当該労働者に係る労働時間の状況の適切な把握に努め、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直すことが望ましいとされています。自社の実態にあった管理、制度の選択ができるよう、適宜見直していきましょう。

 

【日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査2020】

https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20200630.pdf?3253

【厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」】

https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf

 

 

職場のトラブル相談「いじめ・嫌がらせ」がトップ

 

◆個別労働紛争解決制度とは

個別労働紛争解決制度は、職場の労使トラブルの当事者が利用できる、3つのトラブル解決方法(労働相談、助言・指導、あっせん)のことです。労働相談は全国にある総合労働相談コーナー(労働局・労働基準監督署に設置)で受け付けており、助言・指導は労働局長によるもの、あっせんは紛争調整委員会によるものとなります。

主に労働者側からの利用になりますが、使用者側からの利用も可能で、費用は無料です。

個別労働紛争解決制度によると、訴訟による方法よりもトラブル解決までの期間が短いという傾向があり、これは労使双方にとってメリットです。また、訴訟によるよりも解決のための費用が安く収まるのは、会社にとってメリットです。

トラブルは、大事(おおごと)になる前に対処するのが大事(だいじ)です。

 

◆令和元年度の状況

厚生労働省のまとめた令和元年度の状況では、「労働相談」(総合労働相談)件数は、12年連続で100万件を超えて、高止まりしています。このうち、労働条件その他の労働関係に関する事項のトラブル相談(労働基準法違反の疑いがある内容以外の民事上の個別労働紛争相談)は約28万件となっています。

そして近年、「民事上の個別労働紛争相談」、「助言・指導」、「あっせん」のいずれについても、「いじめ・嫌がらせ」に関する内容が、過去6年以上、相談件数のトップとなっていることが特徴となっています。

 

◆パワハラ防止法の施行

こうした情勢を背景に、職場のパワハラが問題となっており、今年6月にはパワハラ防止法(労働施策総合推進法)が施行され、企業にはパワハラを防止するための措置(就業規則や服務規律への企業の方針の明確化、相談窓口の設置、研修の実施、当事者のプライバシー保護等)が義務付けられました。中小企業については、2022年3月31日までの努力義務期間を設けたうえで、2022年4月1日から適用されます。

「あの会社でパワハラを受けた」といったことが、口コミやSNS等で広まってしまうと(その真偽はさておき)、企業にとっては人材採用や経営の面で悪影響があります。労使トラブルの芽は小さいうちに解決するようにしたいですね。

【厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」】

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000643973.pdf

 

 

中途採用における「オンライン選考」の実態~エン・ジャパン調査より

 

新型コロナウイルスによる感染が拡大する中、採用においてもWEBを利用したオンライン選考が進んでいます。その実態について、エン・ジャパン株式会社の運営する転職サイト「ミドルの転職」上でサイトを利用した転職コンサルタントからのアンケートを基にした調査結果が発表されました。その概要は次のとおりです。

 

◆採用企業がオンライン選考を導入するメリット

9割の転職コンサルタントがオンライン選考のメリットとして挙げたのは「面接地から遠隔にいる人とも面接をできる」という点です。「時間的にも効率的で、日本全国や世界規模で良い人材を見つけられる」「地方企業や大手地方拠点にとってオンライン面接の恩恵は絶大」といった声が寄せられました。

 

◆オンライン面接実施の割合

「最終面接まですべてオンライン面接を実施している企業は何割程度か」という問いには、15%が「8割以上」、17%が「7割~5割」と回答しました。「半数以上の企業が最終面接までオンライン面接を実施している」との回答は32%となりました。

また、最終面接以外をオンラインで実施している企業については60%(8割以上:27%、7~5割:32%)、一次面接のみオンラインで実施している企業については65%(同:30%、35%)の転職コンサルタントが「半数以上実施している」と回答しました。

 

◆採用企業がオンライン選考をしない理由

採用企業がオンライン選考を導入しない理由として上位に挙げられたのは「直接会ってみたら印象が違ったという事例があった」(61%)、「非言語情報がオンラインでは判断し辛い」(59%)でした。その他と回答した方からは「セキュリティに関する社内方針から」「求職者側にネット環境が整っていない場合があるため」「役員クラスは対面を希望する人が多く、その風習がある」といった声が寄せられました。

 

◆オンライン選考で気を付けるべきこと

採用担当者側では「ネットワークトラブル時の対応について求職者に事前に指示を出す」(58%)、「面接案内文に利用するツールの準備について明記をする」(52%)が上位に挙げられました。「接続が上手くいかず、開始予定時刻が大幅に遅れ、求職者も動揺を招いてしまったこと」「利用するツールの案内が遅く、面接時間に求職者側で準備が間に合わなかったケースがある」といったコメントが寄せられました。面接をスムーズに実施できるよう、情報を事前に周知しておくことが大事だと言えそうです。

【エン・ジャパン「中途採用における「オンライン選考」実態調査」】

https://corp.en-japan.com/newsrelease/2020/23172.html