2023年2月

2023年の労務イベントとその対応

 

◆「賃金」に関する改正への対応

4月1日以降、月60時間超の時間外労働の割増賃金率が50%(深夜割増賃金率は75%)となります(引上げ分の割増賃金支払いに代えて有給の休暇(代替休暇)の付与も可能)。就業規則等の見直しの要否とあわせて、残業の申請・承認、残業時間が長い従業員への健康管理も含めた注意喚起など、長時間労働を抑制する取組みができているか確認しておきましょう。

また、2020年4月以降賃金請求権の消滅時効期間が3年に延長されており、4月1日以降、過去3年分の賃金請求権が発生します。賃金不払いをめぐるトラブル予防のため、労働時間把握や集計、割増賃金計算などに不備がないか確認しておきましょう。

さらに、デジタルマネーによる賃金支払いも導入されます。若い従業員などが希望する可能性もありますから、対応を検討しておきましょう。

 

◆「データ公表義務」への対応

2022年7月施行の改正女性活躍推進法により、次の事業年度の開始後概ね3カ月以内での「男女賃金の差異」の情報公表が、301人以上の企業で義務化されています。厚生労働省のデータベース等での公表のほか、働きやすさを示すデータとして募集時に活用されることも考えられます。義務化の対象となっていない企業においても対応を検討しておきましょう。

また、4月以降、常時雇用1,000人超の事業主に、育児休業等の取得状況の年1回公表が義務づけられます。江崎グリコ株式会社による昨年9月の調査で、パパ育休制度を認知している人の7割超が利用したいと回答するなど、利用しやすい環境が整っているかも関心を集めていますので、こちらも対応を検討しておくとよいでしょう。

 

【厚生労働省リーフレット「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」】

https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf

【厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」】

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html

【厚生労働省「女性の活躍に関する「情報公表」が変わります」】

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962289.pdf

【厚生労働省「「育児休業平均取得日数」を公表する場合の公表・計算例について」】

https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001029777.pdf

「多様な正社員」の現状

 

無期転換ルールによって無期雇用となった社員の重要な受け皿の1つとして期待されている、勤務地限定正社員や職務限定正社員、労働時間限定正社員のいわゆる「多様な正社員」。

労働政策研究・研修機構が、企業側、労働者側それぞれについて調査を行った結果(2021年実施)が公表されています。企業調査として従業員規模30人以上の全国の民間企業等が5,700社あまり、労働者調査として20歳以上の正社員、契約社員・嘱託、パート・アルバイト、派遣社員が2万人回答しています。

 

◆多様な正社員がいる企業は18.3%

多様な正社員(勤務地限定・職務限定・労働時間限定)がいる企業は、全体の18.3%となっています。

 

◆採用方法

企業が多様な正社員を採る方法は、「中途・通年採用」の割合が最も高くなっています。「有期契約労働者からの転換」や「無期転換社員からの転換」によっている企業の割合も約2割あります(複数回答)。

 

◆トラブル

限定された労働条件の変更について、限定内容に反することや限定区分の変更による配慮などに関してトラブルが生じているようです。内容は、企業側からの区分変更の申入れが拒否された、労働者側からは会社都合で限定内容が変更された、という原因がそれぞれ最も高くなっています。

調査では、限定内容の説明をしていなかったり、限定内容について規定していなかったりした企業で、よりトラブルが多く発生していると報告されています。働き方の多様化への対応のためには、目を通しておいたほうがよい資料です。

なお、無期転換については、労働条件の明示事項の追加等が検討されていますの、今後の動向に注意しておきましょう。

【労働政策研究・研修機構「多様化する労働契約の在り方に関する調査」】

https://www.jil.go.jp/institute/research/2022/224.html

 

「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」および「緊急雇用安定助成金」が3月で終了します

 

厚生労働省は、新型コロナウイルス対策として、休業手当を受け取れなかった人を対象に導入した「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」の受付を、令和5年3月末までの休業をもって終了すると明らかにしました。

また、休業手当の一部を補助する企業向けの「緊急雇用安定助成金」の受付も、令和5年3月末までの休業をもって終了します。

雇用情勢が回復し、コロナ禍前と同様に人手不足感が強まっていることなどを踏まえ、制度の打ち切りを決めました。利用されている方はご注意ください。

 

◆新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の申請対象期間および申請期限

令和4年10月~令和4年11月に休業した場合の申請期限は令和5年2月28日まで、令和4年12月~令和5年1月に休業した場合の申請期限は令和5年3月31日まで、令和5年2月~令和5年3月に休業した場合の申請期限は令和5年5月31日までです。

 

◆緊急雇用安定助成金の申請期限

支給対象期間(1~3の連続する判定基礎期間)の末日の翌日から起算して2か月以内です。申請期限を過ぎた場合は、申請を受け付けることができません。郵送またはオンライン申請による場合は、上記の日までに支給申請書等が労働局・ハローワークに到達していなければなりませんので、ご注意ください。なお、令和5年3月31日を含む判定基礎期間の申請期限は、令和5年5月31日まで(必着)です。

 

詳しくは、下記ホームページをご覧ください。

【厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金受付終了のお知らせ」】

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001032016.pdf

【厚生労働省リーフレット「緊急雇用安定助成金は、令和5年3月31日をもって終了する予定です」を掲載しました】

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001030562.pdf

 

これからの障害者雇用のキーワード「ニューロダイバーシティ」
 ◆注目が集まる「ニューロダイバーシティ」

「ニューロダイバーシティ」という言葉をご存じですか?

これは、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)を組み合わせて造られた言葉(Neurodiversity、神経多様性/脳の多様性)です。脳や神経、それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重しようとする考え方をいい、例えばASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)などの発達障害も、脳や神経の「個性」であると位置づけます。そして、この個性を強みとして最大限発揮できる雇用環境を創出する動きが欧米の企業を中心に活発化しており、日本においても近時、障害者雇用と企業の成長戦略を考える上で注目を集めているのです。

 

◆ニューロダイバーシティの目指すところ

発達障害がある方は、特にコミュニケーションや対人関係を苦手とする場合が多く、それが就労を難しくしています。しかし反面、一部の人は非常に高い集中力を持ち、興味のあるジャンルについては高い専門性や知識を備えていることもまた、よく知られているところです。

現在、日本では、少子高齢化により生産年齢人口が減少する一方で、障害者の法定雇用率は半分の企業が満たしていません。このような状況にあって、これまで埋もれていた発達障害者が積極的に採用されて活躍できるようになることが望まれています。例えば採用プロセスの工夫や、職場での理解の醸成、強みを生かすことのできる仕事やポジションの提供などにより、多くの方が能力を発揮して働く職場をつくることができれば、それは企業の競争力の強化にもつながります。

 

◆戦略的に目を向けよう!

現在、実際にIT企業において、発達障害のある方のデジタル分野での高い業務特性を生かして収益化等に成功した事例も生まれ始めています。国も、特に人材確保が喫緊の課題となっているデジタル部門にフォーカスして、企業がニューロダイバーシティを取り入れる意義とその方法論を取りまとめるなど、取組みを始めました。企業の成長戦略の1つとして、ニューロダイバーシティに目を向けてみませんか。