令和7年度労働保険の年度更新について
◆期 間
令和7年度の期間は6月2日(月)~7月10日(木)です。申告書は5月末頃に送付される予定ですので、そろそろ準備にかかりましょう。既に、厚生労働省ホームページにはパンフレットや解説動画などが掲載されています(確定保険料の算定に使用する計算支援ツールは更新準備中)。コールセンター(電話番号:0120-256-376)は、5月29日(木)~7月18日(金)で設置され、9時から17時まで土・日・祝日を除き対応してくれます。
◆実務における注意点
パンフレットに掲載されているチェックポイントから、主なものをピックアップします。
・通勤手当等の交通費(非課税分、現物支給の定期代等を含む)の算入漏れはありませんか?
・パート・アルバイトなど短時間労働者の賃金の算入漏れはありませんか?
・事業の代表者や法人の役員への役員報酬を誤算入していませんか?
・賃金総額について、1,000円未満は切り捨てられていますか?
・保険料・一般拠出金額について、1円未満は切り捨てられていますか?
・各労働者について、雇用保険の加入漏れはありませんか?
◆効率的に手続きをしたいなら電子申請
年度更新の書類は項目が多いため記入漏れや記入ミスが心配ですが、電子申請では入力チェック機能や自動計算機能のあるシステムで手続きを行うため、ミスを防げます。
また、前年度の情報を取り込んで書類を作成できるので作成に要する時間も短縮でき、混み合う窓口で長時間待たされることがありません。
【厚生労働省「労働保険年度更新に係るお知らせ」】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/roudouhoken21/index.html
【厚生労働省「労働保険の電子申請に関する特設サイト」】
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/denshi-shinsei/tokusetusaito.html
改正労働安全衛生法が成立しました
5月8日、衆議院本会議にて、改正労働安全衛生法及び作業環境測定法が可決、成立しました。多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、下記の措置を講ずるとされています。施行日は、別に記載のあるものを除き、令和8年4月1日です。
◆改正の概要
1.個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
既存の労働災害防止対策に個人事業者等も取り込み、個人事業者等による災害の防止を図るため、
① 注文者等が講ずべき措置(個人事業者等を含む作業従事者の混在作業による災害防止対策の強化など)を定め、併せてILO第155号条約(職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約)の履行に必要な整備を行う。〔一部は令和9年4月1日施行〕
② 個人事業者等自身が講ずべき措置(安全衛生教育の受講等)や業務上災害の報告制度等を定める。〔一部は令和9年1月1日、同4月1日施行〕
2.職場のメンタルヘルス対策の推進〔公布後3年以内に政令で定める日施行〕
ストレスチェックについて、労働者数50人未満の事業場についても実施を義務化。
3.化学物質による健康障害防止対策等の推進
① 化学物質の譲渡等実施者による危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則を設ける。〔公布後5年以内に政令で定める日施行〕
② 化学物質の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知を認める。
③ 個人ばく露測定について、作業環境測定の一つとして位置付け、作業環境測定士等による適切な実施の担保を図る。〔令和8年10月1日施行〕
4.機械等による労働災害の防止の促進等
① ボイラー、クレーン等に係る製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲を拡大。
② 登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件を強化し、検査基準への遵守義務を課す。〔令和8年1月1日施行〕
5.高齢者の労働災害防止の推進
高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施を事業者の努力義務とし、国が当該措置に関する指針を公表。 等
【厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要」】
https://www.mhlw.go.jp/content/001449334.pdf
オンライン面接・録画面接の注意点は?
近年の生成AI技術の進化は、人事業務全般の効率化と高度化を急速に促進しています。採用面接時の動画を分析するものなどもあり、これからも生成AIの採用活動への導入が進むといわれています。
◆オンライン/録画面接の注意点
コロナ禍以降、オンライン面接(Web面接)や録画面接が広がってきていますが、注意しておきたい点があります。
① カメラ越しでは身振り手振りや微妙な表情変化・雰囲気が捕捉困難であり、評価精度が低下します。対面に比べ応募者の人柄判断が表面的になりやすくなります。
② 機材や通信環境に依存するため、接続トラブルや音声途切れ・映像フリーズが面接の質を低下させます。オンライン面接では、タイムラグが会話リズムを乱すため、面接の質を低下させます。ツール操作に不慣れな面接官/応募者による進行遅延の発生は、印象が悪くしがちです。
③ 緊張感が高まり、機器操作への不慣れが応募者のパフォーマンスを阻害します。2022年の調査ですが「マイナビ学生就職モニター調査」によれば、45.4%の学生が録画面接に苦手意識を持っています。録画面接というだけで忌避される可能性があります。
④ 録画面接では特に、AI解析時のアルゴリズムバイアスやデータ管理問題がリスク要因となります。
以上のことから、対面時に比べ情報が制限され人物の本質を見極めにくい、トラブル要素が多いことなどから、重要な判断には対面による面接が必須と考えたほうがよいでしょう。
◆そもそも採用の基準は大丈夫?
しかし、こうした技術的なこと以前に、自社での採用の基準や職場・職務の状況を意識した質問事項がしっかりと作成されており、加えてそれらを面接担当者全員が共通認識として共有できていることは、自社にマッチした人材を採用するための大前提です。採用の精度を上げるためにはソフト面からの見直しも必要です。
年金改革法案から削除された基礎年金底上げ策とは何だったのか
5年に一度の年金改革法案の中で柱とされていた基礎年金(国民年金)の給付額底上げが、法案から削除されました。この基礎年金底上げ策は、将来の低年金が不安視される就職氷河期世代があと10年ほどで年金の支給開始となる65歳に達するため、厚生労働省で対策が検討されていたものです。しかし、自民党から7月の参院選への影響が大きいと反対論が拡大し、法案から削除されるに至りました。
◆相次いで後退する低年金対策
法案に盛り込まれなかったその他の低年金対策として、基礎年金の保険料の納付期間を60歳から65歳までの5年間延長する案があります。年金額が年10万円増える案でしたが、保険料負担が計100万円増えることへの国民の反発が強く、厚生労働省は2024年7月に断念しました。
パート労働者の厚生年金への加入拡大案は、法案に盛り込まれましたが、保険料を半分負担する事業主への配慮を求める自民党の要望により、拡大完了の時期を2029年から2035年まで先送りしました。
◆基礎年金底上げ策とは
すべての人が受け取る基礎年金は財政状況が悪いため、将来に3割目減りします。老後を基礎年金に頼る自営業者や、低所得の会社員らが困窮するリスクがありました。そこで会社員らが上乗せで受け取る厚生年金を減額して財源をつくり、国庫負担(税金)も投入して基礎年金を底上げするのが、基礎年金底上げ策でした。
厚生労働省によれば、給付額の伸びを抑制するマクロ経済スライドによる調整は、基礎年金より報酬比例部分の方が先に終了するが、厚生年金の積立金を基礎年金の積立金に繰り入れ、国庫負担も増やして基礎年金と報酬比例部分の調整終了時期を一致させれば、基礎年金の財政も改善し、将来的には99.9%の方の給付水準が上昇するとのことです。
しかし、そのためにはこれから厚生年金をもらい始める人の給付水準が何年にもわたって低下した後、やがて少しずつ上昇するという負担があります。また、国庫負担の追加は将来的に最大年2兆6,000億円に達するとされ、これは消費税のおよそ1%にあたり、将来の増税が懸念されます。
厚生労働省の考え方は「年金改革はゼロサムゲーム」というもので、恩恵を受ける人がいれば、必ず誰かの負担が増えたり給付が減ったりします。低年金対策として誰かの年金を削ることが必要なら、その妥当性を国民に丁寧に説明する必要があるでしょう。
【厚生労働省「マクロ経済スライドの調整期間の一致」】
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001169529.pdf